アクセス数を見ていると、意外と人気があるシリーズです。第6弾。
2009年11月にあのバークシャー・ハザウェイがバーリントン・ノーザン・サンタフェ鉄道(BNSF)を約2.4兆円で買収して、世間をあっと言わせました。彼は借金して株を買うことはないと、それまで言っていましたが、このディールでは少し借金をしました。
その後、あっちこっちで、21世紀は鉄道復権と言われ、気の早い投信会社が鉄道ファンドのような投資信託を作っていました。
北米では鉄道は、貨物の輸送手段として残っており、かつ、生き残っている鉄道会社は日本の電力会社かガス会社のような地域独占型になっているケースが多いです(注:日本と決定的に違うのは、市場原理で今の形に集約したのが北米で、国の規制で地域独占が保護されているのが日本です)。
なぜBNSFか、という議論もありましたが、なぜ鉄道か、という議論の方が多かったです(ITを毛嫌いしていて、鉄道という伝統的産業に投資したから、彼らしい、と思われたのか? しかし、その後IBMに投資して、また世間をひっくり返しましたが)。
一方、私は、鉄道とは関係なく、シェールガス、シェールオイルの動向を追っていました。そしたら、BNSFとシェールガス・シェールオイルが結び付いたのです(今更やっと。これを3年前に実行したのだから、彼はやっぱり投資家だ!)。
これがBNSFの鉄道網です。
青い点線で囲ったのが、バッケンシェールプレイ(Bakken)と呼ばれる地域です。
シェールガス・シェールオイルの油田・ガス田で、北米最大級の「バッケンシェール」と呼ばれる地帯があります(中東にあっても大型クラスの油田だそうです。一説には世界最大の油田、サウジのガワールに匹敵するとも)。ノースダコタ、モンタナといったアメリカでも有数の田舎にあります。
エネルギー資源はあまり人口が密集していない地域で発見されるケースが多く、発見された場合、生産者と消費者はワンサカいるのですが、間をつなぐ輸送手段が悩みになります(だからパイプライン会社に投資チャンスがあるのですけど)。
バッケンも例外ではないのですが、この地域を元々独占的に横断していたのがBNSFです。
バッケンでは石油の生産量がすさまじく伸びており、パイプラインを作っても輸送手段が追い付きません。そこで「地域独占型鉄道」がご登場、というわけです。
まさしく、バフェット氏の言う「有料ブリッジ」のような会社がBNSFだったのです!!
この有料ブリッジ会社は、近頃、石油増産に対応するため、大々的な設備投資を発表しました。
"BNSF has been hauling Bakken crude out of the Williston Basin area for over five years. In that time, we have seen the volume increase nearly 7,000 percent, from 1.3 million barrels in 2008 to 88.9 million in 2012," said Dave Garin, BNSF group vice president, Industrial Products. "We see this trend continuing and we are committed to serving this growing market now and in the future."
(一文を抜粋。ざっくりとした訳:BNSFは過去5年間、ウインストン堆積地からバッケンの原油を輸送してきました。その間、BNSFはその輸送量を2008年の130万バレルから、2012年は8,890万バレルに7,000%も増加させました。我々はこのトレンドが継続していくと想定しており、この成長市場を支えていくことをコミットします)
単純な算数だと、2012年の約年9000万バレルから36,500万バレルへと約4倍の輸送体制にする、ということになりますが…。
西部地域にはあまりパイプラインは延びていません(ロッキーを超えるのに苦労するのかな?)。シアトル等に出るには、この「有料ブリッジ」を通過せざるを得ません。また、テキサスの油田は皆、テキサスの石油化学産業に目が向いているので、西海岸地帯は石油の安価な調達をこれに依存する割合が高くなるとも言われています。
パイプラインは各社が増設に向かって、投資を行っていますが、石油を掘る時の砂などを運ぶ手段や、石油を運ぶといっても、パイプラインは均一品質のものを大量に輸送するには向いていますが、多品種少量ニーズには不向きです。したがって、石油生産者や製油所等の細かいニーズにこたえるのは鉄道(あるいはトラック)というわけです(勿論、パイプラインで運ぶ方が鉄道で運ぶより安上がりになりますが、バッケン産の石油は安価で生産出来るようです)。
(石油エネルギー技術センターの資料 より)
BSNFの石油関連輸送量の推移とBSNFの業績推移
えらい儲かっていますな。鉄道会社の営業利益率が3割近くあって、なおかつ2ケタ成長しております。グーグルの決算じゃないかと思いましたね。
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YTD
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増減率
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2,012
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2,011
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Coal
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1,831,070
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1,925,682
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-4.9%
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Grain
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450,545
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472,736
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-4.7%
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Chemicals
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352,444
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365,970
|
-3.7%
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Sand
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185,560
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170,320
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8.9%
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Petroleum
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284,191
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166,705
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70.5%
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Others
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1,087,632
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1,013,312
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7.3%
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Total
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4,191,442
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4,114,725
|
1.9%
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これは毎週発表される貨車の車両数の内訳の年初来の増減数を見ているものです。Petroleum(原油)が圧倒的に増加しています。全体の貨物量は+1.9%の伸びです(11月4日現在)。
バッケンがBSNFの業績をぐいぐい引き上げているのが良くわかります。
(カナダのパイプライン会社トランスカナダ社がカナダのオイルサンドをアルバータからアメリカのモンタナ、ノースダコタを経由して、オクラホマ州クッシングまでつなぐ「KEYSTONE」というパイプライン計画があり、これがBakkenを経由して、同地の原油も運ぶ算段になっています。しかし、オバマ政権はこのパイプラインがモンタナの大自然を汚染するといって建設許可していません。まさか、バフェットが政権に圧力をかけていたのでは…。単なる妄想ですけど…。「バフェット税制」といって富裕層の増税を擁護していましたね)
Kinder Morganも天然ガスパイプラインやCO2の供給などの「有料ブリッジ」を保有していますが、私は投資判断が3年も遅れています・・・。
Enbridge というカナダのパイプライン会社もカナダのオイルサンドをアメリカ北西部につなぐパイプラインを保有していますが、これも「有料ブリッジ」的な地域独占型輸送手段となっています。
(パイプラインビジネスは高速道路の通行料のようなフィービジネスでキャッシュフローがPredictableと言われています。交通量もあらかじめ契約で最低ラインが決められている。契約期間は平均20年です。但し、多くのパイプライン会社は一部コモディティの売買も行っているケースもあり、パイプラインのようなRecurringなFeeビジネスの割合を個社別に分析する必要性がある)
もっともバフェットさんはネブラスカ州オマハに住んでいて、バッケンシェールのあるノースダコタへはバークシャー傘下のネットジェッツで飛べば、1時間ぐらいで行ける「地元」ですからねえ。その地元に大金が転がっていたのですから、見逃さない手はなかったのかもしれません。
BNSFに投資を決定するときに、バッケンの飛躍を予想していた、とすれば、驚異的ですが(2009年に投資していますが、さすがに2.4兆円ディールなので、1年ぐらいは検討期間や準備期間が必要だったのではないでしょうか?BSNFは上場企業でしたし。とすればリーマンショックごろにまさしく真剣に投資判断を練っていたのでしょう。その時にシェールブームを読み込んでいたのだろうか?ちょっと早すぎる気もするが、先見の明はさすがとしか言いようがない)、会社を丸ごと買っちゃうんですから、よっぽど見通せたのでしょうね(リーマンショック直後はオバマ政権は「グリーンニューディール政策」を掲げて、太陽光発電や電気自動車が話題を独占していたはず)。
一つ気をつけなければいけないのは、北米の鉄道会社の従来の「上得意」顧客は、石炭会社で、石炭の輸送手段の大きな部分を鉄道が占めていたとのことです。この北米産石炭は、シェールガスの出現で、北米のガス価格が暴落してしまったこと、オバマ政権の環境政策で火力発電業者はCO2排出のより小さい天然ガスに乗り換えるインセンティブが働くこと等により、大量にだぶついています(つまり、石炭の生産が落ちているため、鉄道会社は石炭の輸送量を減らしている)。
したがって、石油やガスの輸送にありつけない鉄道会社の業績は減収傾向位にあります。
そういった会社の一つとして、ノーフォークサザン鉄道(NSC)があります。同社は大西洋岸の、米国の人口密集地帯をとおっていますが、まさにこの地域では、テキサス産のシェールガスが、火力発電業者に積極攻勢をかけているため、石炭の輸送が激減している地帯です(株価は割安だとMorningStar USAは指摘していますが果たして)。
NSCの第3四半期の決算ですが、石炭輸送量の激減で、大幅減益となっています(それでもStill営業利益率が27%もありますね。また、総売上高やコストは大きく変わっていませんが、利益が激減するということは、何を運ぶかで大きく変わってくるということでしょうか?)。
Economic Moatの濠の深さが問われる投資ですし、BNSFも石炭は輸送量では筆頭貨物ですけど、会社丸ごと買っちゃったバフェットさんは自信がおありなのでしょう。560人の新規正規雇用の増加と言うおまけ付き。鼻高々ですね。
「北米非在来型エネルギー」関連投資は、最近投信会社が相次いでファンドを募集していますが、我々個人はファンドのようなバルクに投資するのか、投資先を吟味するのか、プロをどこまで信頼できるのか(プロが対素人に騒ぎだすと、話題としては旬を過ぎていることが多い。BRICS投資で大やけどをした人は考え直した方が良い)、考えた方がいいような気がします。
他人に先んじて、事を成す、言うは易しですけど、やっぱり投資は簡単ではないし、バフェットってちゃんと見ていますね。
ちなみにバークシャーはBNSFの株式を2.4兆円で買収しましたが、当時すでに約22.4%の株を保有していました。2009年11月時点でざっくり3兆円で評価して買収したことになります。
買収当時のBNSFの最終利益は約1600億円だったようです。今年はこのままいくと33億ドル(約2640億円)ぐらいは確実で、バッケンの輸送量が伸びると、3000億円は軽く超えそうな感じがします。PER10倍で買った様なもの。「経済的濠のある良いビジネスを魅力的な価格で買収する」ご自身で語っている通りの買収を確実に実行していたのですね。
バフェットの凄さを改めて知りました(結論はエネルギーとはあまり関係なくなったかな?)。
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