2012年11月23日金曜日

ウォーレン・バフェット 「スノーボール」(上・下)を読んで


ブログタイトルの礎となったこの本。2008年に買った後すぐに読んで、この前もう一回読みなおしました。

「スノーボール」は投資ノウハウ本と言うより、ウォ―レン・バフェットの伝記のような本です。しかし、これを理解すれば、彼がどのような投資を心がけているのかがどのバフェット本より良くわかると思います。


バフェットの現在の投資は過去の彼を理解すれば、若いころの延長線上にある、ということがよく理解できます。

ワシントンポスト、アメリカン・エキスプレス、コカ・コーラなどは彼の出世株のような銘柄ですが、実はいずれも若い時から熟知している銘柄です。

たとえば、また幼少期(確か6歳)のバフェットは620セントのコカ・コーラ15セントでバラ売りしていました(しかしながら80年代半ばまで、彼のご愛用ドリンクはペプシだった。その後急にコーラに変わったのはよくわからない)。

中学生や高校生のころの彼は新聞配達員でお金をためていたのです。お父さんが下院議員でワシントンに住んでいた時期がありました。したがってワシントンポストがどういったステイタスの新聞紙か良く知っていました。

アメリカン・エキスプレスはかれの個人パートナーシップ時代(60年代)にすでに投資を行って大成功を収めた銘柄です。その当時からアメックスカード、トラベラーズチェックのフランチャイズに確信を持っていたのです。アメックスとウェルズ・ファーゴは創業者が同じ人です。

ムーディーズにしても、若いころから読みふけっていた「ムーディーズマニュアル」(四季報のようなものだと思う)の価値を十分理解していたからに違いありません。

 

ガイコ、そう、保険会社に関して言えば、物心ついたころから人の寿命を推定するようなことがあったようで、彼の得意技(確率統計、暗記)は保険数理に向いていた、ということの延長のような気がいたします。

自分の信念を曲げない、集中投資に徹する、という点も若いころの性格が出ています。師匠のベン・グレアムは分散投資派でしたが、自説を曲げずにガイコばっかり追いかけていました。

実で優秀な経営者のいる会社に投資して、自分は経営に口出ししない、といういかにもカッコいい彼の投資スタイルは、彼自身の経験で出来上がったものです。彼自身、初期のスタイルは「物言う株主」として、経営陣にあれこれ口出しした過去がありましたが、決して良い結果を生まなかったので、初めから出来のいい経営者がいる会社に投資することになっただけなのです(有名な例えばなしに、良い騎手が駄馬に乗っても、結果は出ないし、残る評価は悪い馬しかない、といものですね)。

良くないビジネスを良い経営者にいくら任せても無駄だ、と何を隠そう、バークシャー・ハザウエイ自身の繊維ビジネスの経営で身を持って知っています。

すべての投資が成功したわけではありません。

バークシャー・ハザウエイに投資したことは、最大の失敗と良く語っています。

また、マクドナルドウォルマートディズニーに(早い段階で)投資をしなかったことに非常に後悔しています(ディズニーは投資会社が株式交換でディズニー社に買収されて、その後交換で得たディズニー株を売却してしまった)。r

非常に初期のインテルへの投資をしていません(もし、投資していたら、今頃コカ・コーラ以上にバフェットの代名詞になったこと間違いなしで、「見る目がある」と評価を上げていたでしょう)。1968年ゴードン・ムーア、アンディ・グローブがインテルの設立資金を募集している話を知っていましたが、手を出していません。

「親友」となった、ビル・ゲイツのマイクロ・ソフトにも結局、投資していません(個人で100株ほど買ったそうだが)。ゲイツからはインテルとマイクロ・ソフトの株は買うべきだと90年代前半に勧められています。

これらの銘柄にすべて投資していれば・・・。いけないなあと思ってしまいますが、つい想像してしまいますね。

機会損失は多大なものがあります(バークシャーを除けば、奇遇にもすべてダウ平均銘柄に採用されている)。

 それでも理解できる銘柄に固執して、株式投資で大きな成功を収めています(もっとも保険料の大半を株式投資に回す、という普通の保険会社では出来ない芸当をやっていますが)。

 投資銘柄だけをなぞって行くと、一見自分でも出来そうな気がするのですが、そうは問屋が卸さないのが現実ですねえ(バーリントン・ノーザン・サンタフェ鉄道で思い知りました)。


本では、バフェットの人柄を頭は切れるけど、引っ込み思案で、対人コミュニケーションが苦手な青年ウォ―レンが、得意な株式投資を通じて、誠実で成熟した投資家に成長する過程を描いています(少年時代、自宅の地下室でボディービルディングをやって女の子にもてようとしていたり、ディール・カーネギーの話し方教室に通っていた)。

もちろんバフェットのことを全面的に肯定しているわけでもなく、交渉を「押しの一手」で進めることや、部下には結構厳しい上司であることもしっかり書かれていますし、結構他人の評価を気にするという点も意外。また、複雑な女性関係や家族関係も、一応事実が赤裸々になっていて、まあ、公平に描かれているのだなあと思います。

若いころはワークホーリックで家庭を顧みなかったものの、芸は人を助けると言いましょうか、彼自身の名声や本質的な誠実さで、家族関係は一応丸く収まっているようです。

ソニーの創業者である故盛田氏とマイクロ・ソフトの創業者であるビル・ゲイツのバフェットに対するアプローチの違いに、ビル・ゲイツの偉大さがあるのではないかと思ったりもしました。

ゲイツ氏は、バフェットを徹底的に分析して、(気に入られるように)もてなしましたが、盛田氏はそうではなかった。盛田氏は自分が出来る最大のもてなしでバフェットをもてなしましたが、バフェットの好みを考えてもてなしたわけではなかった。残念ながらソニーはバフェットの心をとらえなかった。

(もちろん、バフェットと仲良くなれば、自社の評価にポジティブになると当初ゲイツは計算して、なおかつ盛田氏の失敗を聞いていたのかもしれない。しかし、ゲイツ氏のバフェットへの気配りが感じられる描写だ。さらに、日米マーケティング能力の違いを推し量るには、絶好の逸話だとも思った)。

ウオール街、投資銀行はソロモンの時代(80年代後半から90年代前半)とリーマンショック時では何も変わっていませんでしたね。ソロモンのグッドフレンドは、会社の金で儲けたのに、ボーナス・ボーナスとうるさく言うな、と言って、トレーダーからヒンシュクを買うなど、当時の投資銀行の経営者はまだ健全な発想だったようです(しかし、グッドフレンドは他社の引き抜き防止のため、トレーダーにボーナスを弾まざるを得なくなっていた)。リーマンショックの始まりが芽生えていたのかなあ。


しかし、よくよく考えてみると、バフェットって正直さ、誠実さ、そしてお金持ち、世間から尊敬を集めている。そうです、女性にモテる条件がそろっていましたね。女性の心を射止めるのが年々うまくなっています(ネブラスカ・ファニチャーマートミセスBから同社株を買い取った時はキレまくっていた)。著者のアリス・シュローダーさんも、結構美人ではないか?


投資のヒントを得るより、バフェット個人のことが中心に据えられていますけど、コカ・コーラ以降のバフェットの投資がすべてだ、と思っている人は、彼の現在の投資は彼の過去をさかのぼらないと理解が中途半端に終わりますよ、という点は指摘できると思う。


また、頭脳は天性のものがありましたが、資産と人格形成は努力の人であったとも言えそうです。
 

応援よろしくお願いします!


 

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