2012年11月28日水曜日

セクターアロケーションから見た世界市場

分散投資、何を基準に分散するのか、セクターの分散は最もそれを意味するのではないでしょうか?

私自身は強烈にセクターアロケーションを意識する、ということはありませんでしたが、Ken Fisherというアメリカのファンドマネージャーの教えもあり(「投資家が大切にしたいたった3つの疑問」の著者であり、お父さんはあのフィリップ・フィッシャーです。彼は父親と正反対で、個別銘柄選択はパフォーマンスに対して大きな影響を与えない。セクターアロケーションが重要だ、という考えの持ち主。市場平均を下回らないことをモットーとしているようです)、参考になったため、ある程度意識しながらポートフォリオづくりを行う、という感じです。

今回は世界市場におけるセクターアロケーションを見て思ったことを…。



この表は、大和証券の成瀬氏のレポートから拝借したMSCIの各市場における各セクターの分散を時価総額比率で表示しています。
MSCI Kokusaiは日本を除いています。

まず、見て驚いたのは、金融セクターは世界中で、トップ3に必ず入るセクターとなっている点です。なおかつ、日本を除くアジア市場では、金融が時価総額の半分を占めることになります(中国の巨大「地銀」(工商銀とか)と生保が大きいのでしょう)。
現在、世界的に金融業界は不況と言ってよいと思いますが(特に欧州)、それでもこれだけを占めるというのですから、景気が回復するともっと大きくなるかもしれませんね。

金融以外では、消費-ディフェンシブ が3地域あります。特に欧州では大きいセクターになっています。タバコ産業(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ)、家庭用品(ユニリーバ)、食品(ネスレ、ダノン)などが上位を占めていると思われます。

テクノロジーはNASDAQを擁する北米のインパクトが大きいですね。北米は最もバランスがとれていて、かつ、付加価値の高そうな産業ほど大きいように見えます。

英国はエネルギーに特徴がありますね。英国自身は北海油田があるものの、BPShellBHPビリトン、Rio Tintoなどの強力な陣営なので、何となく納得。
シティーの影響か、金融も大きいですね。90年代に「ウィンブルドン現象」ということがよく言われました。これは、金融自由化を進めた結果、ロンドンでは外資が金融市場を席巻したことを、テニスの全英オープンで英国選手が活躍できないけど、大会は盛り上がっていることにたとえて言われたことでしたが、結果的に英国では金融がトップの時価総額になっていますね。これは特筆してよいかも知れません。我がHSBC Holdings plcも大きく貢献しているのでしょう。

日本は、産業財・サービス(多分三菱重工とか重化学系、機械系、あるいは自動車下請け的なものでしょう)、消費-シクリカル(トヨタ、ソニー他が該当すると思います)、そして金融で過半数を占めてしまいます。素材まで入れると約6割が「景気敏感産業」となっています。金融を除くと、どちらかと言えば資本集約的で、投資を必要とし、損益分岐点は高く、収益構造はボラタイルと言えると思います(注:米国のボーイング、キャタピラー又はユナイテッドテクノロジーズ辺りは、損益分岐点も低く、ボラタイルの幅が日本企業の競合よりずっと小さい点を念のため申し添えます)。たしかにものづくりの国の特徴が出ているともいえます。
一方、ディフェンシブ・ヘルスケアは先進国では最下位です。エネルギーに至っては壊滅的です(注:総合商社をどこに含めているのか、ちょっとわかりませんが)。

こうして見ていると、各国の特徴がセクターに現れていて、市場はある程度効率的なのかもしれません。

自分のセクターアロケーションがどの国に近いのか、また分析してみたいと思います。分散投資を目指すのなら、北米型がやっぱり最も分散されていると言えそうですね。

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2012年11月23日金曜日

ウォーレン・バフェット 「スノーボール」(上・下)を読んで


ブログタイトルの礎となったこの本。2008年に買った後すぐに読んで、この前もう一回読みなおしました。

「スノーボール」は投資ノウハウ本と言うより、ウォ―レン・バフェットの伝記のような本です。しかし、これを理解すれば、彼がどのような投資を心がけているのかがどのバフェット本より良くわかると思います。


バフェットの現在の投資は過去の彼を理解すれば、若いころの延長線上にある、ということがよく理解できます。

ワシントンポスト、アメリカン・エキスプレス、コカ・コーラなどは彼の出世株のような銘柄ですが、実はいずれも若い時から熟知している銘柄です。

たとえば、また幼少期(確か6歳)のバフェットは620セントのコカ・コーラ15セントでバラ売りしていました(しかしながら80年代半ばまで、彼のご愛用ドリンクはペプシだった。その後急にコーラに変わったのはよくわからない)。

中学生や高校生のころの彼は新聞配達員でお金をためていたのです。お父さんが下院議員でワシントンに住んでいた時期がありました。したがってワシントンポストがどういったステイタスの新聞紙か良く知っていました。

アメリカン・エキスプレスはかれの個人パートナーシップ時代(60年代)にすでに投資を行って大成功を収めた銘柄です。その当時からアメックスカード、トラベラーズチェックのフランチャイズに確信を持っていたのです。アメックスとウェルズ・ファーゴは創業者が同じ人です。

ムーディーズにしても、若いころから読みふけっていた「ムーディーズマニュアル」(四季報のようなものだと思う)の価値を十分理解していたからに違いありません。

 

ガイコ、そう、保険会社に関して言えば、物心ついたころから人の寿命を推定するようなことがあったようで、彼の得意技(確率統計、暗記)は保険数理に向いていた、ということの延長のような気がいたします。

自分の信念を曲げない、集中投資に徹する、という点も若いころの性格が出ています。師匠のベン・グレアムは分散投資派でしたが、自説を曲げずにガイコばっかり追いかけていました。

実で優秀な経営者のいる会社に投資して、自分は経営に口出ししない、といういかにもカッコいい彼の投資スタイルは、彼自身の経験で出来上がったものです。彼自身、初期のスタイルは「物言う株主」として、経営陣にあれこれ口出しした過去がありましたが、決して良い結果を生まなかったので、初めから出来のいい経営者がいる会社に投資することになっただけなのです(有名な例えばなしに、良い騎手が駄馬に乗っても、結果は出ないし、残る評価は悪い馬しかない、といものですね)。

良くないビジネスを良い経営者にいくら任せても無駄だ、と何を隠そう、バークシャー・ハザウエイ自身の繊維ビジネスの経営で身を持って知っています。

すべての投資が成功したわけではありません。

バークシャー・ハザウエイに投資したことは、最大の失敗と良く語っています。

また、マクドナルドウォルマートディズニーに(早い段階で)投資をしなかったことに非常に後悔しています(ディズニーは投資会社が株式交換でディズニー社に買収されて、その後交換で得たディズニー株を売却してしまった)。r

非常に初期のインテルへの投資をしていません(もし、投資していたら、今頃コカ・コーラ以上にバフェットの代名詞になったこと間違いなしで、「見る目がある」と評価を上げていたでしょう)。1968年ゴードン・ムーア、アンディ・グローブがインテルの設立資金を募集している話を知っていましたが、手を出していません。

「親友」となった、ビル・ゲイツのマイクロ・ソフトにも結局、投資していません(個人で100株ほど買ったそうだが)。ゲイツからはインテルとマイクロ・ソフトの株は買うべきだと90年代前半に勧められています。

これらの銘柄にすべて投資していれば・・・。いけないなあと思ってしまいますが、つい想像してしまいますね。

機会損失は多大なものがあります(バークシャーを除けば、奇遇にもすべてダウ平均銘柄に採用されている)。

 それでも理解できる銘柄に固執して、株式投資で大きな成功を収めています(もっとも保険料の大半を株式投資に回す、という普通の保険会社では出来ない芸当をやっていますが)。

 投資銘柄だけをなぞって行くと、一見自分でも出来そうな気がするのですが、そうは問屋が卸さないのが現実ですねえ(バーリントン・ノーザン・サンタフェ鉄道で思い知りました)。


本では、バフェットの人柄を頭は切れるけど、引っ込み思案で、対人コミュニケーションが苦手な青年ウォ―レンが、得意な株式投資を通じて、誠実で成熟した投資家に成長する過程を描いています(少年時代、自宅の地下室でボディービルディングをやって女の子にもてようとしていたり、ディール・カーネギーの話し方教室に通っていた)。

もちろんバフェットのことを全面的に肯定しているわけでもなく、交渉を「押しの一手」で進めることや、部下には結構厳しい上司であることもしっかり書かれていますし、結構他人の評価を気にするという点も意外。また、複雑な女性関係や家族関係も、一応事実が赤裸々になっていて、まあ、公平に描かれているのだなあと思います。

若いころはワークホーリックで家庭を顧みなかったものの、芸は人を助けると言いましょうか、彼自身の名声や本質的な誠実さで、家族関係は一応丸く収まっているようです。

ソニーの創業者である故盛田氏とマイクロ・ソフトの創業者であるビル・ゲイツのバフェットに対するアプローチの違いに、ビル・ゲイツの偉大さがあるのではないかと思ったりもしました。

ゲイツ氏は、バフェットを徹底的に分析して、(気に入られるように)もてなしましたが、盛田氏はそうではなかった。盛田氏は自分が出来る最大のもてなしでバフェットをもてなしましたが、バフェットの好みを考えてもてなしたわけではなかった。残念ながらソニーはバフェットの心をとらえなかった。

(もちろん、バフェットと仲良くなれば、自社の評価にポジティブになると当初ゲイツは計算して、なおかつ盛田氏の失敗を聞いていたのかもしれない。しかし、ゲイツ氏のバフェットへの気配りが感じられる描写だ。さらに、日米マーケティング能力の違いを推し量るには、絶好の逸話だとも思った)。

ウオール街、投資銀行はソロモンの時代(80年代後半から90年代前半)とリーマンショック時では何も変わっていませんでしたね。ソロモンのグッドフレンドは、会社の金で儲けたのに、ボーナス・ボーナスとうるさく言うな、と言って、トレーダーからヒンシュクを買うなど、当時の投資銀行の経営者はまだ健全な発想だったようです(しかし、グッドフレンドは他社の引き抜き防止のため、トレーダーにボーナスを弾まざるを得なくなっていた)。リーマンショックの始まりが芽生えていたのかなあ。


しかし、よくよく考えてみると、バフェットって正直さ、誠実さ、そしてお金持ち、世間から尊敬を集めている。そうです、女性にモテる条件がそろっていましたね。女性の心を射止めるのが年々うまくなっています(ネブラスカ・ファニチャーマートミセスBから同社株を買い取った時はキレまくっていた)。著者のアリス・シュローダーさんも、結構美人ではないか?


投資のヒントを得るより、バフェット個人のことが中心に据えられていますけど、コカ・コーラ以降のバフェットの投資がすべてだ、と思っている人は、彼の現在の投資は彼の過去をさかのぼらないと理解が中途半端に終わりますよ、という点は指摘できると思う。


また、頭脳は天性のものがありましたが、資産と人格形成は努力の人であったとも言えそうです。
 

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2012年11月17日土曜日

北米「非在来型エネルギーと投資戦略」その6 バフェットの鉄道会社買収と「有料ブリッジ」

アクセス数を見ていると、意外と人気があるシリーズです。第6弾。

200911月にあのバークシャー・ハザウェイがバーリントン・ノーザン・サンタフェ鉄道BNSFを約2.4兆円で買収して、世間をあっと言わせました。彼は借金して株を買うことはないと、それまで言っていましたが、このディールでは少し借金をしました。
その後、あっちこっちで、21世紀は鉄道復権と言われ、気の早い投信会社が鉄道ファンドのような投資信託を作っていました。
北米では鉄道は、貨物の輸送手段として残っており、かつ、生き残っている鉄道会社は日本の電力会社かガス会社のような地域独占型になっているケースが多いです(注:日本と決定的に違うのは、市場原理で今の形に集約したのが北米で、国の規制で地域独占が保護されているのが日本です)。


なぜBNSFか、という議論もありましたが、なぜ鉄道か、という議論の方が多かったです(ITを毛嫌いしていて、鉄道という伝統的産業に投資したから、彼らしい、と思われたのか? しかし、その後IBMに投資して、また世間をひっくり返しましたが)。

一方、私は、鉄道とは関係なく、シェールガス、シェールオイルの動向を追っていました。そしたら、BNSFとシェールガス・シェールオイルが結び付いたのです(今更やっと。これを3年前に実行したのだから、彼はやっぱり投資家だ!)。



これがBNSFの鉄道網です。



青い点線で囲ったのが、バッケンシェールプレイ(Bakken)と呼ばれる地域です。

シェールガス・シェールオイルの油田・ガス田で、北米最大級の「バッケンシェール」と呼ばれる地帯があります(中東にあっても大型クラスの油田だそうです。一説には世界最大の油田、サウジのガワールに匹敵するとも)。ノースダコタ、モンタナといったアメリカでも有数の田舎にあります。

エネルギー資源はあまり人口が密集していない地域で発見されるケースが多く、発見された場合、生産者と消費者はワンサカいるのですが、間をつなぐ輸送手段が悩みになります(だからパイプライン会社に投資チャンスがあるのですけど)。
バッケンも例外ではないのですが、この地域を元々独占的に横断していたのがBNSFです。
バッケンでは石油の生産量がすさまじく伸びており、パイプラインを作っても輸送手段が追い付きません。そこで「地域独占型鉄道」がご登場、というわけです。

まさしく、バフェット氏の言う「有料ブリッジ」のような会社がBNSFだったのです!!
この有料ブリッジ会社は、近頃、石油増産に対応するため、大々的な設備投資を発表しました。

"BNSF has been hauling Bakken crude out of the Williston Basin area for over five years. In that time, we have seen the volume increase nearly 7,000 percent, from 1.3 million barrels in 2008 to 88.9 million in 2012," said Dave Garin, BNSF group vice president, Industrial Products. "We see this trend continuing and we are committed to serving this growing market now and in the future."

(一文を抜粋。ざっくりとした訳:BNSFは過去5年間、ウインストン堆積地からバッケンの原油を輸送してきました。その間、BNSFはその輸送量を2008年の130万バレルから、2012年は8,890万バレルに7,000%も増加させました。我々はこのトレンドが継続していくと想定しており、この成長市場を支えていくことをコミットします)

単純な算数だと、2012年の約年9000万バレルから36,500万バレルへと約4倍の輸送体制にする、ということになりますが…。
西部地域にはあまりパイプラインは延びていません(ロッキーを超えるのに苦労するのかな?)。シアトル等に出るには、この「有料ブリッジ」を通過せざるを得ません。また、テキサスの油田は皆、テキサスの石油化学産業に目が向いているので、西海岸地帯は石油の安価な調達をこれに依存する割合が高くなるとも言われています。

パイプラインは各社が増設に向かって、投資を行っていますが、石油を掘る時の砂などを運ぶ手段や、石油を運ぶといっても、パイプラインは均一品質のものを大量に輸送するには向いていますが、多品種少量ニーズには不向きです。したがって、石油生産者や製油所等の細かいニーズにこたえるのは鉄道(あるいはトラック)というわけです(勿論、パイプラインで運ぶ方が鉄道で運ぶより安上がりになりますが、バッケン産の石油は安価で生産出来るようです)。

(北米主要シェールオイルの生産量推移)

(石油エネルギー技術センターの資料 より)

BSNFの石油関連輸送量の推移とBSNFの業績推移

 

えらい儲かっていますな。鉄道会社の営業利益率が3割近くあって、なおかつ2ケタ成長しております。グーグルの決算じゃないかと思いましたね。
  
  
 
YTD
増減率
2,012
2,011
Coal
1,831,070
1,925,682
-4.9%
Grain
450,545
472,736
-4.7%
Chemicals
352,444
365,970
-3.7%
Sand
185,560
170,320
8.9%
Petroleum
284,191
166,705
70.5%
Others
1,087,632
1,013,312
7.3%
Total
4,191,442
4,114,725
1.9%


これは毎週発表される貨車の車両数の内訳の年初来の増減数を見ているものです。Petroleum(原油)が圧倒的に増加しています。全体の貨物量は+1.9%の伸びです(114日現在)。

バッケンがBSNFの業績をぐいぐい引き上げているのが良くわかります。

(カナダのパイプライン会社トランスカナダ社がカナダのオイルサンドをアルバータからアメリカのモンタナ、ノースダコタを経由して、オクラホマ州クッシングまでつなぐ「KEYSTONE」というパイプライン計画があり、これがBakkenを経由して、同地の原油も運ぶ算段になっています。しかし、オバマ政権はこのパイプラインがモンタナの大自然を汚染するといって建設許可していません。まさか、バフェットが政権に圧力をかけていたのでは…。単なる妄想ですけど…。「バフェット税制」といって富裕層の増税を擁護していましたね)

Kinder Morganも天然ガスパイプラインやCO2の供給などの「有料ブリッジ」を保有していますが、私は投資判断が3年も遅れています・・・。

Enbridge というカナダのパイプライン会社もカナダのオイルサンドをアメリカ北西部につなぐパイプラインを保有していますが、これも「有料ブリッジ」的な地域独占型輸送手段となっています。
(パイプラインビジネスは高速道路の通行料のようなフィービジネスでキャッシュフローがPredictableと言われています。交通量もあらかじめ契約で最低ラインが決められている。契約期間は平均20年です。但し、多くのパイプライン会社は一部コモディティの売買も行っているケースもあり、パイプラインのようなRecurringFeeビジネスの割合を個社別に分析する必要性がある)

もっともバフェットさんはネブラスカ州オマハに住んでいて、バッケンシェールのあるノースダコタへはバークシャー傘下のネットジェッツで飛べば、1時間ぐらいで行ける「地元」ですからねえ。その地元に大金が転がっていたのですから、見逃さない手はなかったのかもしれません。

BNSFに投資を決定するときに、バッケンの飛躍を予想していた、とすれば、驚異的ですが(2009年に投資していますが、さすがに2.4兆円ディールなので、1年ぐらいは検討期間や準備期間が必要だったのではないでしょうか?BSNFは上場企業でしたし。とすればリーマンショックごろにまさしく真剣に投資判断を練っていたのでしょう。その時にシェールブームを読み込んでいたのだろうか?ちょっと早すぎる気もするが、先見の明はさすがとしか言いようがない)、会社を丸ごと買っちゃうんですから、よっぽど見通せたのでしょうね(リーマンショック直後はオバマ政権は「グリーンニューディール政策」を掲げて、太陽光発電や電気自動車が話題を独占していたはず)。

一つ気をつけなければいけないのは、北米の鉄道会社の従来の「上得意」顧客は、石炭会社で、石炭の輸送手段の大きな部分を鉄道が占めていたとのことです。この北米産石炭は、シェールガスの出現で、北米のガス価格が暴落してしまったこと、オバマ政権の環境政策で火力発電業者はCO2排出のより小さい天然ガスに乗り換えるインセンティブが働くこと等により、大量にだぶついています(つまり、石炭の生産が落ちているため、鉄道会社は石炭の輸送量を減らしている)。
したがって、石油やガスの輸送にありつけない鉄道会社の業績は減収傾向位にあります。
そういった会社の一つとして、ノーフォークサザン鉄道(NSC)があります。同社は大西洋岸の、米国の人口密集地帯をとおっていますが、まさにこの地域では、テキサス産のシェールガスが、火力発電業者に積極攻勢をかけているため、石炭の輸送が激減している地帯です(株価は割安だとMorningStar USAは指摘していますが果たして)。
 


NSCの第3四半期の決算ですが、石炭輸送量の激減で、大幅減益となっています(それでもStill営業利益率が27%もありますね。また、総売上高やコストは大きく変わっていませんが、利益が激減するということは、何を運ぶかで大きく変わってくるということでしょうか?)。

Economic Moatの濠の深さが問われる投資ですし、BNSFも石炭は輸送量では筆頭貨物ですけど、会社丸ごと買っちゃったバフェットさんは自信がおありなのでしょう。560人の新規正規雇用の増加と言うおまけ付き。鼻高々ですね。

「北米非在来型エネルギー」関連投資は、最近投信会社が相次いでファンドを募集していますが、我々個人はファンドのようなバルクに投資するのか、投資先を吟味するのか、プロをどこまで信頼できるのか(プロが対素人に騒ぎだすと、話題としては旬を過ぎていることが多い。BRICS投資で大やけどをした人は考え直した方が良い)、考えた方がいいような気がします。

他人に先んじて、事を成す、言うは易しですけど、やっぱり投資は簡単ではないし、バフェットってちゃんと見ていますね。

ちなみにバークシャーはBNSFの株式を2.4兆円で買収しましたが、当時すでに約22.4%の株を保有していました。2009年11月時点でざっくり3兆円で評価して買収したことになります。
買収当時のBNSFの最終利益は約1600億円だったようです。今年はこのままいくと33億ドル(約2640億円)ぐらいは確実で、バッケンの輸送量が伸びると、3000億円は軽く超えそうな感じがします。PER10倍で買った様なもの。「経済的濠のある良いビジネスを魅力的な価格で買収する」ご自身で語っている通りの買収を確実に実行していたのですね。

バフェットの凄さを改めて知りました(結論はエネルギーとはあまり関係なくなったかな?)。


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2012年11月9日金曜日

リストラ、リストラ、嗚呼リストラ 日米リストラ比較論

ここでは、「リストラ」という言葉を、従業員の削減を主としたコスト削減政策を企業が実行する、という風な意味合いで書くものとします(要するに首切り)。

このリストラを語る時、株主の立場として語る場合と、労働者の立場で語る場合では、完全に利益相反してしまいますので、あらかじめ断っておきますが、ここでは投資関連ブログとして、株主として語るものとします(そう考えると、「サラリーマン投資家」というジャンルは非常に矛盾を抱える区分ですね)。

この決算発表でも、私のポートフォリオカンパニーの中で有名になったのは、フォードモーターの欧州工場3ヵ所の閉鎖です。欧州での生産台数を約2割削減するという大掛かりなもの。また、ダウ・ケミカルのリストラも20工場を閉鎖する、というのも大きく発表されました(20の工場のうちには日本拠点も一か所含まれる)。

1年前にはプロクターアンドギャンブルやシスコシステムズでも大掛かりなリストラが発表されています。

さらに、なかなか気付かないものの、IBMも第3四半期ではリストラを行ったようです(Workforce Rebalanceという絶妙な表現でした!さすがネーミングがうまい)。

ちょっと前はアルトリア・グループでも人員削減を行っていましたし、HSBC1年ほど前、欧州部門で大きいリストラを行いました。

外国株の企業において、リストラをやっていない会社を探すほうが難しいのかもしれません(聞かないのはシェールブームに沸いていて、ガンガン設備投資を行っているKinder Morganぐらいかなあ)。

総じてグローバル展開している企業では、中国をはじめとするアジア地域での人件費高騰に悩まされており、稼ぐ地域の報酬を手厚くして、本国の社畜?をバッサバッサとリストラしています(P&Gは北米の中間管理職を結構切った。HSBCは香港の給与を引き上げて、英国やフランスの人員をリストラした)。

これらは、リーマンショック直後の話ではなく、2011~2012年の低成長時点での話です。

一方、日本株のポートフォリオ各社では、そういった声はほとんど聞かれません。花王もJTもプリンタ事業はヒューレット・パッカードと運命共同体のようなキヤノンでさえ、リストラとまではいきません。

日本でリストラと言えば、シャープ、ソニー、NEC、エルピーダ、パナソニック辺りが新聞を騒がせています(いや、新聞が騒いでいる?)。


違いは
日本では、「リストラでもしなければ、会社の生き残りに背に腹変えられない」という場面にのみ、リストラが正当化されるようです。最後の手段のイメージ。目線は社会、すなわち外ずらにあります(後述しますが、自己保身のケースも多い)。

日本の場合、むしろ、簡単にリストラをする企業や経営者は嫌われる傾向にすらあり、「雇用を守る義務」を広く社会一般に背負っている「社会の公器たれ」、という独特の価値観に経営者は呪縛されているのではないか、と個人的には思ってしまいます。

(昔の高度経済成長時代に名をはせた、ご老体元経営者あるいは視聴率を稼ぐだけのただの評論家連中等が「雇用を守るのが経営者の義務」という趣旨を言うと、現役経営者さんも無視できなかったりする。また、経営者も自分の出身部門が赤字事業に陥っても、情が移ってリストラに躊躇したりするケースもある。最悪は、経営者が事業本部長時代に肝いりで進めたプロジェクトがとん挫しても、同様の傾向がある)

一方、米国のそれは、変動費扱いです。ジョンソン・エンド・ジョンソンでも薬の特許が切れると、担当MRが解雇されていました(かなり小さい記事でしたが)。もちろん、訴訟を受けないように、注意深く、かつ、巧妙に行われるようです。

シスコシステムズは2011年の秋に、全従業員の約9%に当たる人員をリストラしました(工場の売却を含むが、早期退職も募集していました)。

シスコやP&Gの実態をPLで確認してみます。




一方、日本有数のソニーやシャープを見てみましょう。



売上高営業利益率が15%あってもリストラを行う企業と、赤字になってやっとリストラを行うのとでは、企業体力に与えるダメージがかなり違います。

なおかつ、P&Gやシスコのそれは、利益率が示す通り、リストラを行ったとはいえ、グローバルでナンバーワン、ナンバーツーの競争力を保持する事業や製品がたくさん残っています(P&Gのパンパースやジレットはナンバーワンブランドです。シスコも相変わらずルーター、スイッチで強いし、クラウドの風に乗ったデータセンター事業でも優位に事業を進めている)。

一方、ソニー、シャープあるいはパナソニックがすぐに黒字成長路線に回復するのか、よくわかりません。追いつめられて、初めてリストラに踏み切っているからです。

米国企業は短期の利益を考えて、日本企業は長期目線と新聞では言いますが、現実は逆ではないかと思っています。米国では企業、事業の持続的成長というのが企業経営者に課された使命であり、持続的成長のために逆算的に、何に注力して、何を捨てるのか(選択と集中)を行っているのです。自社でそれが無理な場合、他社にそれを委ねるのです。

(一方、日本では、問題を先送りした結果、どうしょうにもなくなって、初めてメスを入れると言う感じ。Too Lateなケースが多い。問題先送りが長期目線とはとても言えないと思う)

選択されてしまった事業や企業は、ボロボロの赤字垂れ流し事業ではなく、ピカピカのブランド力を持つものの、会社の総合戦略から反れたものなのです(プリングルスのポテトチップス事業をP&Gはケロッグに売却しましたが、プリングルスのブランド力が落ちているなんて聞いたことありません)。

アメリカ企業のリストラは、株価下落を食い止める、つまり企業業績の悪化を出来るだけ食い止める手段として、リストラを選択しています。業績悪化防止の常套手段です。目線は投資家にあります(リストラして業績悪化を食い止めなければ、株主代表訴訟等の裁判でヤラれる可能性もあるので、そういう意味では自己保身かもしれない)。

結論として、リストラの日米比較をすると、日本は最後の手段、アメリカは常套手段と言えると思います。なぜなら、日米経営者の意識がどこにより重点が置かれているか、ということだと思います。要するに、うるさいやつの顔を見ながら経営しているんですね


勿論、アメリカでもリストラばっかりする経営者は社会的な批判を受けるケースはたくさんあります(ヒューレット・パッカードで初の女性CEOになったカーリー・フィオリーナ氏は、カリフォルニア州の上院議員選挙に立候補しましたが、「この女はCEO在籍期間中、X万人の首を切ったやつだ」とネガティブキャンペーンに会いました。ミット・ロムニーさんのようですね。やっぱり負けていました)。

現状維持以上の想像力やブレークスルー経験の乏しい日本では、リストラ後の再出発をなかなかイメージ出来ないのでしょうか(本来、敗戦後の奇跡の復興というブレークスルー経験を持っているので、やればできると思うのですけど)。

一方、自由、再挑戦、富や名声を求めて、好んで遠路(主に)欧州から移民が建国したアメリカとでは、根本的な発想が違うのかもしれません。国家・国民に流れるDNAと言いましょうか。

したがって、歴史的観点で考えると、日米を単純比較するのは、適切ではないと思います。

しかしながら、株式投資という観点からいえば、病気を初期症状から見逃さずに完治させる米国流を支持せざるを得ない、というのが私の結論です。病気持ち(なおかつ重症)の企業にリスクマネーを託すことはできません(病気が癒えていて、体力回復局面に来れば別ですが)。

いまや個人マネーも国境を超えて自由に動き回ることが出来る時代ですから。


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