2012年4月8日日曜日

北米「非在来型エネルギー」と投資戦略 その3 投資対象の選択

まず始めに申し上げるべきことは、投資は各人各様の投資目的があるはずであり、各自の目的に沿った投資対象を選択すべきだと私は考えています。従いまして、以下の記述はone of themに過ぎないことを申しておきます。

エネルギー・資源セクターは先進国インデックスでは10%前後を占める巨大セクターで、新興国企業を考えた場合でも、国営石油会社など外せないセクターであると思います。一方、日本は元来資源輸入国で、こういったセクターへの魅力ある投資対象は少なくなっていると思います。

日本にはない業態である点と、日本の弱点である資源インフレ(そもそも日本はエネルギーに対する国家戦略が欠落している)を、外国株で補完する、と言うのは有益かもしれません。私はセクターへの分散投資の観点と日本人であるがゆえに資源インフレヘッジへの観点の両方が強い方です。

また個人的に、比較的業績やCFが安定的な成長を示す企業を好みとしていることもあるので、お含みおきを。



なお、北米においては歴史的暖冬(先日、カナダの知人から「本当に暖かかった」というメールがあった)と生産過剰気味であるため、天然ガス相場が暴落していることには留意する必要性があります。

「非在来型」エネルギーへの投資を考えるに、まずは恩恵を受けそうな業界をざっと見てみました。

1.      石油・ガスの生産会社
2.      石油サービス会社
3.      パイプライン会社
4.      日本の総合商社
5.      石油化学産業
6.      アメリカ全体 など

ちなみに日本株でニッチな技術を持っていて、「使えそうな」会社はあるのだろうか、という観点ではほとんど探していません(わからない)。

結論から言えば、上記の中では今回、3のパイプライン会社に投資対象を絞りました。1はシェブロンを、5の石油化学はたまたま(シェールと騒がれる直前に)ダウ・ケミカル社を買ったので、もう投資済みとなっています。以下各業界について私見を述べてみたいと思います。

1:石油・ガスの生産会社
「非在来型」への投資は、エクソンモービル、トタル(仏)、スタットオイル(ノルウエー)など欧米大手は力を入れています。中国企業でもいくつかプロジェクトに投資しているはずです。しかし、「非在来型」にフォーカスすると、デボンエナジー、アナダルコ、アパッチ等の米国中堅石油・天然ガス企業があります。こういった企業は基本的に米国・カナダ内での生産活動が中心で、「非在来型」の売上高全体に占める割合が大手より大きくなる収益構造です。

しかし、石油・ガスの相場に収益が大きく左右されるボラタイルな収益構造です。
大手の場合は、世界中に生産拠点を保有しているので、リスクがある程度分散されています。メジャーがいいか、中堅がいいかは、投資にたとえると、分散投資か集中投資がいいのかと言う観点に似た選択になると思います。

各社の保有する埋蔵量も重要なファクターです。従来資源会社では、埋蔵量の現在価値が事業価値と測定する評価方法があるようです。埋蔵量を常に増やすためには探索・試掘活動や開発などの巨額投資が必要になります。メジャーであるシェブロンでは2012年の設備投資額予算が約2.5兆円にも上るようです。

収益構造がボラタイル、巨額の設備投資が必要であり、CFは「消費者独占型企業」から見ると小さくなります。相対的に低いPERはこのせいではないかと思っています(それでも低すぎるような印象があるけど)。
ただ、オイルショック以降の最近の2030年に限って言うと、比較的うまく経営されています。特に、エクソン、シェブロンの両ロックフェラー系の企業は手堅い経営で有名です。

2:石油サービス会社
私はこの分野はちょっと苦手でして、知識が薄いのですが、実際に掘削サービスを請け負う会社、リグの操業を下請けする会社、油井を作ったりエンジニアリング指導する会社などがあります。日本の三井海洋開発はこの分野に入るでしょう。ただし、同社は海底油田専門なのか?
ハリバートンは水圧破砕の生みの親でこの分野に入るでしょう。

この分野も、やっぱり生産量が伸びて投資活動が活発にならないと、潤わない印象が強いですね。生産量が伸びると、埋蔵量が減少するので、生産会社側は常に新しい油田の開発に取り組むインセンティブが働く。そうすれば必然的にお呼びがかかる企業群。生産会社の投資予算に注目しながら投資すべきか? ボラタイルな印象が強い。

3:パイプライン会社
これは日本ではほとんどお目にかかれません。小規模のものはあるようです。原油や天然ガスを運ぶタイプや製油、つまりガソリン・航空機燃料などを運ぶものなど様々なタイプのパイプラインがあります。また、在庫目的の貯蔵タンクの運営もこういった会社の事業です。
石油・天然ガス業界では、採掘・生産活動をUpstream、製油やGS小売をDownstreamと呼ぶのに対して、パイプラインやその貯蔵タンクなどはMidstreamと呼んだりしています。

北米では網の目の様に天然ガス、石油および石油製品等のパイプラインは敷設されています。鉄道やトラックと比較してコストが最安値だからです。

さらに、ギャザリング(集油)と言って、生産された石油・天然ガスを集積して、不要な物質を取り除いたり、顧客向け配送前の準備作業を行ったり、中には顧客向けに成分調整のための加工を行っている会社もあります。

これについては別途詳細を書いてみたいと思います。

4:総合商社
日本の総合商社がアメリカ・カナダのシェール資産に積極的に投資している記事が目立ちますね。
ただし、総合商社は文字通り総合ですので、シェール資産が商社のBS総資産に占める割合はほんのわずかだと思います。

例えば、三菱商事を例にとってみても、MCさんが発表したシェールへの投資予定額は発表ベースで約3000億円から将来の事業費を込みで6000億円です(こちらのブログを参照しました)。一方同社のBS総資産は11兆円にも上ります。従いまして現時点ではこういった投資がもたらす会社全体への利益インパクトは限定的です。
もちろん、こういった企業のIRからシェール等の情報を得ることは有益だと思います。

5:石油化学産業
自分の外国株ポートフォリオ第3位はダウ・ケミカルです。同社では、リーマンショック直後にエチレンプラントをシャットダウンしましたが、今回それに修繕を加えて再稼働するそうです。更に、新しいエチレンプラントをメキシコ湾岸に作ると鼻息が荒いです。
天然ガスが安いので、動力コストも安くなりますし(天然ガスで自家発電)、ガスから抽出されるエタン・プロパンを原料としてエチレンを作るようです。エタンは石油からも採れるようですが、石油とガスの価格差が非常に大きく、ガスを積極利用するとコストセービングが出来るようです。

日本の信越化学工業なども米国に工場を持っているので、ある程度恩恵を受けるのでは、と言われています。
アメリカは現時点では天然ガスの輸出にどちらかと言えば消極的ですので(注カナダは積極的だが、LNG基地を作る必要性があり、実現されても2018年以降と言われている)、仮に天然ガスがアメリカで割安のまま推移するとなった場合、真っ先に恩恵を受ける産業だと思います。

6:そしてアメリカ全体
アメリカの今年の冬は歴史的暖冬(ちなみに去年は歴史的極寒だった)だったこともありますが、天然ガスが非常に安価になっており、逆に天然ガスを戦略的に活用しようと言われています。

石炭よりも天然ガスを使った発電の方が安いのでは、とか言われています(CO2削減効果も天然ガスのほうが大きい)。日本では原子力再稼働の判断について、グズグズしていることもあり、電力コストが高騰して、電気代に遅かれ早かれ跳ね返ってくるでしょうが、米国では低減見通しも出てきました。こういった差も日米産業力の基礎体力に影響を与えかねません。

ガソリン代が高騰しても、電気代やガス代が割安になれば、少しは可処分所得も助かると言うものではないでしょうか?
また、天然ガスを燃料としたトラックなどの輸送への転換も議論に上っており、電気自動車より天然ガス自動車、なんて事態もゆくゆくはありえるかもしれません。

北米以外では、天然ガス(特にLNG)は石油価格にリンクする価格動向となっていますが、アメリカは例外的に天然ガスが独歩安となっています。これを海外輸出すれば儲かりますが、そうするとアメリカの天然ガスが割高となって、元も子もないため、輸出慎重論が根強いです。
そこで、政治的に、アメリカと親密あるいはアメリカの国益に有利になるように動く国に安いLNGを限定的に輸出許可を与える、という構想があるようです。抜け目ないですな。

日本では全てが高騰しそうな感じですね。残念。

なお、日本が北米からLNGの輸入を受けることは、中東に偏重したエネルギー調達の分散化になる(LNGは比較的分散が進んでいるが)というメリットぐらいでしょう。アメリカから輸入できれば申し分ないですが、現状はハードルが高そうです(韓国はちょっとだけ輸入できるようです)。

カナダから見れば、輸出先がアメリカに偏重してしまうと、逆にアメリカに足元を見られてしまうので、「ヤンキーよ、いい気になるなよ」というけん制目的にアジア向け輸出は魅力があると思います。

ざっと見ましたが、天然ガス価格が暴落してしまいましたが、暴落すれば一般産業や消費者は恩恵を受けるので、実はアメリカ経済にとって良い、ということにもなるので、作る側と使う側の両方を見ておいた方が無難です。

物事メリット・デメリットの双方がありますので、本件についても、開発が進めば一定の環境汚染はありえると思いますが、恩恵を受ける側面もあるので、冷静な投資判断をしていきたいと思います。


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4 件のコメント:

  1. <米国暖冬・極東厳冬がガス市場に及ぼす影響>
    下記のレポートは、読みやすくて、有用です。


    http://www.cosmogas.co.jp/member/study/detail.aspx?cid=347&p=3

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  2. <米国・シェールガス油田:豪州・BHPビルトンによる大型投資>
    Yet in the space of a few months, BHP has spent $20 billion buying into US shale gas and all but locked itself into spending between $60bn and $80bn on further capital investment out to 2020, the year of such great portent.

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  3. <米国・シェールガス油田:豪州・BHPビルトンによる大型投資>
    この記事が判りやすい:

    http://www.bhpbilliton.com/home/investors/reports/Documents/2011/111114_BHPBillitonPetroleumInvestorBriefing_Presentation.pdf

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  4. snowbeeさん、ポイントはこのような状態から、株式投資にどうやって結びつけるのか、と言う点で述べております。

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