デルコンピュータが非公開化されることになりそうです(正確にはTOBが成立しなければならないはず)。
非公開化となると、いつも、なぜ?とか、株価が安い、とか取り沙汰されます。
なぜ非公開化するのでしょうかね?
短期的な構造改革のために株価下落を伴う可能性があるから、というのがお決まりの文句になっています。ホンマカイナ?
もしそれが正しかったら、ソニーとかパナソニックの様な企業こそ非公開化するべきじゃないでしょうかね。
株価が安いから。多分それはある。安値で放置され(注:株式価値向上を常日頃からやっているにもかかわらず、割安で放置されていることを指しています。ロクにIRもせずに万年安値放置株を意味しません)、だったら経営者が買い取ってしまおう、というのは動機としては有だと思う(そういった動機は社会的に認知されにくいと思いますが)。
放っておくと敵対的買収に晒されてしまうので、非公開化で逃げるという手もある(しかし、TOB時に敵対的買収候補者がカウンターTOBするリスクが残る)。
一般論ですが、企業が非公開化するためには、株を買い集めなければなりません。非公開化するためには最低でも3分の2以上の株を買い集めなければなりません(実際は90%以上いると思う)。そのようなお金をどうやって工面するのか、これを知らなければ非公開化の考え方をミスります。
原則借金で集めます。さすがに手元資金のない人に、100%株を買い占めるカネを貸す銀行は存在しないので、特別目的会社を作り、投資ファンドなどが資本を提供し、それに銀行などが融資したお金で、発行済み株式を買い集めます。この際、経営者も出資するケースをManagement Buy OutつまりMBOと呼びます。出資しなければタダのLBO(Leverage Buy Out 吉本興業はこの例だと思う)。
LBOとMBOは言葉は似ていますが、要するに、企業を買収する資金に経営者が出資するか否かで、融資の形態はいずれもLBOになります。テクニカルなのでこの辺でやめておく。
(出資する経営者の資金をバックファイナンスで借りる人も中にはいる)
オーナーの出資比率が3割近くあると、多分、投資ファンドの資金がなくともMBOが出来ると思う。神戸のアパレル会社であるワールドとかはこの例だと思います。
経営者から見た場合、非公開化後は、借金を背負った経営を行うことを意味します(もちろん公開していたころも借金がある企業はたくさん存在しますが、借金比率は確実に高くなると思う)。たくさん借金を負った企業ほど慎重な経営が望まれますし、たくさん借金をした企業ほどレバレッジ効果でその後の株主価値が大きくなることは容易に想像がつくでしょう。
(注:企業価値を高める方が望ましいが、高まらなくてもよい。レバレッジの中で、借金と株主価値の割合が変わることで十分リターンになる。買った値段で売却を想定する不動産投資のようなもの。5000万円で買った投資不動産を5年後に5000万円で売却するとします。投資時の自己資金が1000万円、借入金が4000万円。毎年200万の借金返済を行い、5年後に5000万円で売却すれば、手元に2000万円が残るはず。1000万円が2000万円になりますね。年率約14%のリターン。ダウ平均より良い可能性が高い。税金・経費は考慮せず)
また、非公開化で抜本的な事業構造を改革する、というのは債権者から見ればリスキーであるはずです。ゆえに、そんな抜本策は取りづらいということになります(簿価以下で工場を売却して売却損が多額に発生するとかそういうのは、売却代金で借金を返済できるので、むしろ銀行・投資家に歓迎される。銀行は元々当該工場を時価で評価したうえで融資判断するから。しかし当初価格通りに売れないリスクがあるので、やはり慎重姿勢になりがち。しかし、非公開化後に何か目玉施策がないと融資倫理上引っかかるようなこともあると聞いたことがあるので正確には個別の銀行判断でしょう)。
抜本的な事業構造改革がとん挫すると、かつてのすかいらーくの様な悲劇もありえます。この時は経営者の首を挿げ替えるのに、銀行の同意が必要だった、という事実が発覚したので、銀行の影響力の大きさが分かるでしょう。
不動産投資の例でいえば、まず200万円の元金返済を確実に出来なければ、非公開化後には大変な苦労が残ってしまいます。
非公開化が何を持って成功したか、というのは当初の目的に合わせて判断すべきことで、一概に言えないような気がしますが、アメリカでは目一杯借金して、土俵際から盛り返して(たくさん借金を返済して)、それなりの価格で売却又は再IPOを行って、経営者はストックオプションでその後一生安泰、というのが一時期流行ったようです(ミット・ロムニーの投資ファンド社長時代の過去がかつてWSJで暴露されていた。それによると、時代がITバブル崩壊後の不景気と重なったので不運もあったが、借金が重たすぎて経営破たんした企業もいくつかあった。ITバブル崩壊前はIRR100%というウルトラリターンの企業もあった)。
一方、従業員目線と投資家目線が混同した議論にもなりがちな点に留意しよう。従業員と投資家はある程度利益相反するので、「俺の職場を無茶苦茶にするな」という日本的従業員ロジックが表に出やすいが、冷徹に言えば、「俺の会社」ではなく「株主の会社」であるのが正論。しかし、会社が破たんすれば、株主はゼロ、従業員の労働債権は一応銀行債権より優先して支払われるので、株主側も、そのようなバカなことを普通は避けるはず。
企業価値が上がれば、従業員の待遇も改善されるし、基本的にはそれを投資家も望むはずなので、実際は同じ舟に乗っていると言えよう(但し、企業価値を見出す従業員という範囲に留意しよう。客観的に見ても「社畜」だと株主と利益相反するかも?)。
一般の投資家は自分の投資先が非公開化された場合、特にバリュー投資家はプレミアム次第でしょうねえ。引っかかったらサッサと次の獲物を探すのが精神衛生上も健全だと思います。あまりにも安値だった場合、多少むかつきますけど。多分価格の是非を議論するのは時間の無駄だと思う。株価は企業の努力以外に、ミスター・マーケットのご機嫌次第な側面もある(しかし誠実に株価向上の努力をしない人にはミスター・マーケットも微笑まないと思う)。別の人に任せましょう。
ところで冒頭のデルの場合、経営者はもの凄い実績の持ち主なので、本気で構造改革する可能性は残されています。しかし、MBOしなければ出来ないことはないと思います。かつてのIBMは10年近くでハードウエアからソフトウエアの会社に変身しました。
やっぱり、かつての成長株、今や低迷株ということで投資家がうるさいのでしょうかね。デルぐらいになれば、多分株式市場に帰ってくると思いますが、どんな会社になるのか楽しみですね。
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以前のブログタイトルの時からのブログのファンなので、ちょっと今日の管理人さんのは意外なのですが、、、
返信削除>たくさん借金を負った企業ほど慎重な経営が望まれますし
管理人さんならご存知と思いますが、ファイナンス理論では負債比率を極端に高めると、モラルハザードが発生してよりリスクの高い選択を行うはずです。確かギャンブルか何かで実証されていると思ったのですが、、、。
本稿はMBOが主題であり、オーナー兼経営者が株主資本毀損リスクの高い経営判断をとることは「あり得ない」と思いますが・・。また、債権者(銀行)に実質的な所有権が移っていたとすれば、尚のことそのような経営判断は取られません(自分のカネを守る判断って、当たり前ですよね)
削除ご指摘の件は証券会社のトレーダーが、会社のカネ(他人資本)を元手に、勝てばボーナス、負ければ退職という場合、当然ハイリスクハイリターンな選択をとる、というものでは無いでしょうか?
MBOが主題なことは分かっているんですが、瑣末ながらちょっと気にかかる所があったんですよ。証券会社のトレーダーの行動は、確か藤沢数希さんが指摘してた件ですよね、それは個人の収入の期待値が正なので、当たり前ですよ。
返信削除自分の金を守るのが当たり前ってのは、伝統的な経済学やファイナンス理論が想定する合理的な人間ならそんな気がするんですが、、、、、と書いた所で思い出しました。
僕が気になったのは、プロスペクト理論でした。
実は、自分の金を守る判断って当たり前じゃなかったかなあ。 昔ビジネススクールで習った記憶なので、結構曖昧ですが、人間は「オーナー兼経営者が株主資本毀損リスクの高い経営判断をとることはあり得ない」って言いきれるほど合理的じゃないですよ◎ っていう理論です。
ukさん、たまさん、コメントありがとうございます。
返信削除おっしゃる通り、株主毀損リスクを自らとって自滅したオーナー(例;ダイエー)もいますし、感覚論ですが、経営的に追いつめられると経営者は一か八かみたいなことをする傾向が強いように思います(殿、御乱心、と諌める部下もいなくなる)。
ただ、MBOは元々うまくいっていた企業がリキャピタライズするような図式であることと、銀行との契約で相当縛られるので経営自由度があまりないこと(余ったキャッシュは即座に借入金の返済に充てられる仕組み)、一般の融資より、期限の利益喪失ハードルが高いこと、などからあらかじめ決められた達成確度が高いと思われる計画を粛々とやっていくようになると思います。
失敗すれば、株は銀行の担保なので、自社株は銀行に処分されてしまいます。