2013年3月9日土曜日

どんな投資本を読むのか お勧め書籍 その2 千年投資の公理 (売られすぎの優良企業を買う)


千年投資の公理(パット・ドーシー著 パンローリング)

 

千年投資の公理
千年投資の公理
著者:パット・ド-シ-
価格:2,100円(税込、送料込)
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この本をお勧めする人は少数だったと思います。

これは元モーニングスター社(米国本社)のディレクター、パット・ドーシー氏が同社在籍時代に書いた本です。同社は投資信託のランク付け会社として有名ですが、一方で、個別銘柄の調査・分析も行っています。ドーシー氏はモーニングスター社の個別銘柄のリサーチ部門の責任者でした。
 
同社の個別銘柄の分析法に、Economic Moat(経済的濠)が広いのか、狭いのか、という項目があります。これはウォ―レン・バフェットが好んで用いる投資尺度の一つです。
 
この本では、どのような業種、企業にEconomic Moatがあり、深いか浅いのかということを様々な企業を例に出して、分析、解説してくれます。Economic Moatの要件を分類し、投資決定のプロセスを提案してくれています

経済的濠というのは、一言でいえば競争優位性(Competitive Advantage)を指します。競争優位性があるのかないのか、ある場合、どれぐらい維持できそうなのか、という点を格付けの評価ポイントとしています。

ざっと言えば、この本をマスターすれば「バフェット目線」で個別銘柄をチェックすることが出来るようになる、というのが理想形です。従いまして、優良企業を末永く保有することで、資産を積み上げたい長期投資家向けの個別銘柄選択の基準の解説本としては有用だと思います。


みなさん日常生活でご存じのこの企業のモーニングスター社における評価例を見てみましょう。

NTTドコモ
 
星が5つということは非常に強気で見ているということになります。NTTNTTドコモはニューヨーク証券取引所にも上場しているので、あちらのアナリストもこうやって分析対象としています。

Economic Moat は 「Narrow」になっていますね(しかし、狭くともあるだけよい方)。
 
Economic Moatの概要

1.     インタンジブル資産:特許、許認可、ブランドなどバランスシートに計上しない資産

2.     スイッチングコスト:いったん利用してしまうと、なかなか他社のサービスに乗り換えが容易ではないようなサービス(や商品)

3.     ネットワーク効果:当該企業のサービスの利用者が増えれば増えるほど、そのサービスの付加価値が高まるようなビジネスモデルを保有する

4.     コストアドバンテージ:常に競合他社より割安のコストでサービスが提供できる企業

5.     規模の経済:但し、競合他社に圧倒的な差をつけたシェアを確保している場合に限る

 

インタンジブル資産については、あまり書くことはないでしょう。日本の電力・ガス会社も強力な許認可に(現時点では)守られています。

バフェットの好みはブランド力ですね。チャーリー・マンガーが、リグレーのチューインガムを称賛する場合に、「ガムを買う場合、誰がたった10セントを惜しんで、他社のガムを買うだろうか。そのガムはほかならぬ自分の口に入るのですよ」と言ったのは有名。

スイッチングコストについては、銀行口座を例に引きだしています。いったん利用すると他の銀行に乗り換えるのは、手続きとして非常にめんどくさいものです。原油・天然ガスのパイプラインもこの範疇に入ります。

ネットワーク効果は、あまり広く言われていませんが、バフェット銘柄でいえば、アメリカン・エキスプレス・カードのようなものです。多くの人がアメックスのクレジットカードを使えば使うほど、そのサービスに価値が出てきて、その価値がまた別の客を呼び込む好循環を生み出しています。

コストアドバンテージは例えば、電炉のヌーコアのような企業を挙げています。日本では高炉=鉄鋼業というイメージが定着していますが、皮肉にもそのことが電炉業界に技術革新をもたらし、現在電炉で出来る鋼材の種類が広がりつつあります。他社よりも常に低コストでサービスを提供できることは重要な経済的な濠と言えます。バフェット銘柄でいえば、ウォルマートでしょう。
 
規模の経済は、単純にデカければいいというわけではなく、2番手以下に圧倒的な差をつけている場合は、その規模や基盤のゆえに他社を圧倒できる収益力を生み出せる、というケースです。ニッチ業界で圧倒的な規模を持つ、池の中のクジラのような企業を示唆しています。私は一時期、アイチコーポレーション(高所作業車で国内シェア60%超)を保有していた時期がありました。
 
但し、いったん作った濠が永遠に不滅ではないため、常にモニタリングしていかなければならない、と説いています。コダックもかつては市場を席巻していましたが、技術革新により破たんしてしまいました。

誤解されている濠

経営者の素質や製品の良さは短期的には業績を良くするが、それが長期的な競争優位性を確保するものではないので注意しろ、と警告を発しています。騎手に賭けるのではなく、馬に賭けろと言っています。これもバフェットが、良い経営者だからと言って、沈みかけた企業を立て直せるわけではない、と自らの体験で口を酸っぱく言っていますね(バークシャーは元々繊維の会社でしたが、時代の波に勝てずに、繊維事業を廃業してしまったことを指しています)。

素晴らしい製品、大きなマーケットシャア、無駄のない業務執行、優れた経営陣は、それ自体で濠を形成するものではなく、持続性の有無がカギになります。いくら素晴らしい経営者が存在しても、その経営者の次世代が会社を傾ける例は、身近にありますね(悲しいかな、ソニー、パナソニックは大経営者によって、発展してきたが、今は…。)
 
定量的にはROE15%以上を継続的に出せているのなら、何らかの濠があると考えて良い、と示唆しています(注:アメリカ株の場合)。
 
他にもありますが、長くなるのでこの辺で。

これを日本株に応用することも可能です。例えば、「ネットワーク効果」について。私の頭には、中古車オークション運営会社であるUSS4732、子供供名義で保有するプラネット【2391、などが思い浮かびました(というより、この本を読んでプラネットを発掘して買った)。

 しかし、株価はいずれも「売られすぎ」から、かなり戻しましたね。

著者パット・ドーシー氏について

パット・ドーシー氏は、現在はモーニングスター社を離れて、独立した投資アドバイザーのような仕事をしていますが、いまでもモーニングスター社に出演して解説してくれます。

当然ブルームバーグや他のTV局からも引っ張りだこで、コメントを提供しています。

 
ちょっと早口ですけど、こんな感じの人。


 
 私は彼から、Kinder MorganStrong Buyである、と聞いて、調査を開始して、買うに至りました(他にもいろんな人が推薦していましたが、彼が推薦したことが調査・分析を開始する決定打となりました)。彼が推薦する銘柄は、(決して鵜呑みにしませんが)新規候補銘柄として、重要視しています。基本的にEconomic Moatのある企業を長期投資で推薦しています。

(ビデオではKinder Morgan 以外にAbbott laboも推奨していますね。アボットはモーニングスター社のお気に入りのようです)

MLPは税金問題が煩雑で、どうしたらパイプライン業界に参入できるのかわからず、TransCanadaを買ったのですが、彼がKinder Morgan Inc.MLPではなく普通株投資を通じてMLP投資に類似したリターンが得られると言っているのを聞いて、「まさに探していた要件に当てはまる」と思い、調査して買いました。

日本株でも外国株でも、個別銘柄を長期で構えて、投資したい人にはフィットする本だと思います。


応援よろしくお願いします!

2 件のコメント:

  1. ご紹介ありがとうございます。この本は知りませんでした。

    積読本が減ったら、購入したいと思います。

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  2. パンローリングの株本は、どちらかと言えば、トレーダー向けですが、ファンダメンタル系の本も良書が多いです。
    私は、日本にはほとんど関心がありませんが、米国のモーニングスター社は貴重な情報源として大いに活用しています。

    多分、冷静に考えると、本の中身より、同社やブルームバーグ等で彼の銘柄分析がいつでも聞けることの方が、推奨する理由かもしれませんね。今でもこのMoatによる推奨をやってくれますので。

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