2013年12月16日月曜日

キャッシュフロー計算書(CF)を活用しよう! ケーススタディ エマソン・エレクトリック(EMR)


財務分析の専門家さんは、損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)の分析方法について熱心に指導、解説されることが多いと思います。

そういった解説本にも書かれていることですが、決算と言うのはある種見積もりの部分があり、その見積もり方法は企業の経営者に決定権が一義的にはあると思います(もっとも、いったん決定した会計処理方法を変更するのは、かなりハードルが高い。例:減価償却費の償却方法他)。


一方、CF計算書はいくら現預金が増減したのかを示すための表であり、誤魔化す余地は小さいです(BSPLを組み合わせたものが原則)。

また、連続増配米国企業の決算を読んだり、聞いたりしていますと、「今期の営業CFはいくらで、前年同期比よりXX増えた」とか、「フリー・キャッシュフローの過去3年間の累計はXXで、配当にいくら、自社株買いにいくら、M&Aにいくら使った」など言及することも多い。配当収入をアテにする投資家ならCFについて、注目することは重要だと思います。

さらに、粉飾(同然の)決算や業績不振企業でも、BSPLを見るより、CF計算書を眺める方が、ヒントが多いことも過去の経営破たん企業の財務分析で、その有用性が立証されたりしています(経営破たん=現金の枯渇ですから)。

 
PLBSよりも分析も比較的容易なので、ご活用をお勧めします。

 
CF計算書は営業CF、投資CF、財務CFの順で記載されます。

営業CFは簡単にいえば、日常的な営業・業務により発生したPLBS科目の増減を基に作成されたCFと言えると思います。

営業CFは基本的に、法人税支払い後のCFを計算していますので、会社が日常業務稼いだ税引き後キャッシュと言えると思います。

したがって、営業CFが増え続ける企業が、CFを伴った成長を実現していると考えられます。

現在、IBMは営業CFの成長が止まっているため、アナリストからダメ出しされています。

 
次に投資CFは企業が投融資に使用したCFの増減を示します。一般的に設備投資やM&Aによる資金はこの範疇に入ります。当然更新投資もこの中に入ってしまいます(持ち合い株の購入もここに入るはず)。

中には、IR用にM&Aによる投資を除外して、投資CFをアピールする企業もあります。これは、Underlyingな設備投資金額と、戦略的に支出した金額を区別して投資家に理解を求める場合に用いることが多く、英米系の企業でよく使う手です。


営業CFから投資CFを引いたものをフリー・キャッシュフロー(FCFと呼びます。

これはIRの観点に立つと、企業が債権者・投資家に償還・還元できる資金がいくらなのかを明示するのに役立ちます。ここでは既に設備投資等をした後の資金ですからね。事業の競争力は維持されているはずです。それでも余ったお金をどう使うのか、ということです。

したがって、M&Aに使った資金を投資CFと別枠で示したくなるということです。

 
CF計算書を活用したIR事例
 

 
上記は、Emerson Electric(EMR)という米国の電機会社のIR資料からです。同社は電源、空調機器、プロセスマネジメントなどを行う会社で、日本でいえばキーエンスと富士電機を足して割ったような事業の会社だと思います(多分)。

業績は非常に優秀で、S&P Dividend Aristocrat に入る企業です。電機メーカーで連続増配株なので、その経営の優秀ぶりは折り紙つきといってよいでしょう。

個人的に買おうと思っていましたが、結局買えなかった企業でもあります。


上のスライドは運転資金をマネジメントしながら、営業CFを売上高の12-15%の水準に持って行き、売上高の10~14%FCFを維持する。同時に、FCF÷当期純利益は確実に1を超える(つまりFCF>当期純利益)水準を目指す、というのを長期的な目標水準としたい、と言っています。

下のスライドでは、2012~2015年の営業CF110億ドル(1.2兆円程度)を目指し、その使い道のうち、36%は配当(約40億ドル)、22%が自社株買い(20~30億ドル)、買収も22%20~30億ドル)、設備投資は20%で約20億ドルという風に計画しています。

株主には概ね、営業CF58%程度を還元すると言っていますね(純利益からではなく、営業CFからと言っていますね)。


これだけCFに対して、目標を示していると、現預金がバランスシートに貯まっていることはありえないように感じます。それと、設備投資をそんなにやらない点も注目ですね(多分そんなに必要ないビジネスなのだろう)。投資しなくても、キャッシュフローが出る電機会社、いいですねえ。

借入金は少ないながらも、ありますが、返済には全く触れていません(残高を維持するということでしょう)。


多くの日本企業は営業利益をいくら目標とするか、設備投資はドカーンとやりますよ、ということは示しますが、キャッシュの使い道をここまで深く示すことはないと思います(一部の先進的な企業を除く)。

最も、エマソンも買収案件には実際には柔軟な対応をするとは思いますが…。

 
この結果、投資家が最も注目する1株当たり当期利益(EPS)は以下の様な水準を目指すと言っています。

 
売上高は+3~5%の成長、営業利益率は19%、買収と自社株買い、それが出来れば7-9%の成長が可能である、FCFは売上高の10~14%、設備投資は売上高の3%程度、とほとんど自らの財務規律をガラス張りにしていますね(但し、当社は現在の低成長な外部環境を脱すれば、EPS10~13%の成長を目指したい、と別のスライドでは説明していますので、念のため。その場合、売上高が5~7%増が基準になるようです)。
 

配当成長投資の観点から見れば、売上高が年4%程度成長してくれれば、配当も8%程度増配が見込めそうな感じ、という風に見ることが出来ると思います。

(結局は今のS&P500企業の多くは大なり小なりこんな感じの企業が多いのです)
一般的に米企業は、レンジで中期の目標を掲げるケースが多いです。また、いつまでに達成するという期限を設定することもあまりありません。持続的に一定の成長率で成長していくことを目標に示すという感じです。

この辺、「アメリ感」ですね。 数値目標を掲げると、コミットメントとなって大きく拘束されてしまいますので、それを経営者は嫌ったりします。達成できないと、CEO自ら無能を証明するようなもので、即進退伺に発展しかねません。
日本の様に、できなかっても誰からも何も咎められないようなことはないのです。
 
エマソンもリーマンショックの煽りを乗り越えた後は、得意の中国経済の減速などで必ずしも業績は好調とは言えない状況です。しかし、そのマネジメント能力は優れており、上記の7-9%のEPSの成長は難しくはないと個人的には思います。

 

アメリカのトレンドは数年経つと日本のトレンドになり易く、外国人株主の多い日本企業等は上記の様な計画を既に株主に示している場合もあります。配当投資家は最後はShow me the Money!! ですので、CFはよく見ておいた方が良いと思います。
 

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