プライベートクレジット(Private Credit、PC)と呼ばれる金融形態があります。
簡単に言えば、銀行の代わりに企業へ融資を行うファンド型の金融です。従来の言葉で言えばノンバンク金融の一種ですが、より正確にはファンドが企業に直接融資を行う「Direct Lending(直接融資)」と呼ばれる分野です。
基本的な仕組みは、投資家(年金基金、保険会社などの機関投資家)から資金を集めてファンドを組成し、その資金を企業へ融資するというものです。この構造はプライベートエクイティ(PE)やベンチャーキャピタル(VC)と似ています。
ファンドの存続期間は通常7〜10年程度で、その間、投資家は原則として資金を引き出すことはできません。
期待リターンは概ね年率8〜12%程度とされています。PEのターゲットリターンが15〜20%程度とされることを考えるとやや低い水準ですが、株式投資ではなく融資であるため、理論的には回収確実性が比較的高いと考えられているためです。
PCは以前から存在していましたが、特にリーマンショック後に急速に発展しました。銀行破綻が金融システム全体に大きな影響を与えたため、「大きすぎて潰せない(Too Big To Fail)」問題が議論され、銀行の自己資本規制が強化されたからです。
銀行は自己資本に対して過度なリスク資産を持つことが難しくなり、融資姿勢が慎重になりました。その結果、銀行が融資しづらくなった中堅企業向け融資や、M&Aに伴う買収ファイナンスなどをPCファンドが担うようになったのです。
現在PC市場の規模は約1.5兆〜2兆ドルとされ、その7割以上が米国市場です。一方、米国の商業銀行の貸出残高は約13〜14兆ドルであり、銀行に比べれば小さいものの、無視できない規模になっています。
今問題となっていること
景気減速や金利上昇などを背景に、これまで見えにくかったPC市場の構造的問題が徐々に表面化しています。主な論点は以下の四つです。
- 融資先企業の質
- PCファンド自身の投資行動と銀行との関係
- 個人向け商品のALM問題
- 金融規制の対象外・資産評価の問題
1.融資先企業の質
PCは銀行が融資しづらい企業に資金を提供しているため、一定の信用リスクを取っているのは事実です。特にPEファンドによる企業買収の際のレバレッジドファイナンスで多く利用されています。
ここ数年の急激な金利上昇により、PC融資の多くが採用している変動金利の利払い負担が大きく増加しました。その結果、借り手企業のキャッシュフローが圧迫され、信用不安が顕在化し始めています。
またPE買収企業では「Adjusted EBITDA」と呼ばれる利益指標が使われることが多く、一時費用の調整に加え、将来のコスト削減やシナジーを織り込むケースもあります。その結果、実際よりレバレッジが低く見える可能性がある点も議論になっています。
つまり、一定の仮定を置いた利益水準を基準に融資を行っていますが、その仮定が未実現のままだとすれば、実際の借入水準は高くなってしまいます。その懸念があるのでは、ということです。
2.PCファンド自身の問題と銀行との関係
PCファンドは投資家に高いリターン(8%~12%メド)を提供する必要があります。そのため、投資家資金だけでなく銀行借入を組み合わせてレバレッジをかけるケースもあります。
銀行から低い金利で資金を借り、それを高い金利で企業へ貸し出せば、その差額が超過リターンになります。
しかし融資先の信用力が低下すると、銀行から追加担保(マージンコール)を求められる場合があります。その際、PCファンドは保有するローンを市場で売却せざるを得ないことがあります。市場環境が悪い場合、本来100の価値と評価していた資産を80などの価格で売却することもあり得ます。
また銀行がPCファンドに資金を供給していることが明らかになると、銀行自身の信用リスク管理にも疑問の目が向けられる可能性があります。
3.個人向けPC商品のALM問題
近年、PCやPEなどのオルタナティブ投資は個人投資家向けにも商品化されています。投資信託に近い形で小口販売され、一定の制約はあるものの四半期ごとに解約可能とする商品も多くなっています。
しかし運用資産は企業向けの長期融資であり、5年以上の契約が一般的です。
つまり
「資金調達は短期、運用は長期」
というALMミスマッチが存在します。
もし投資家の解約が増加すると、ファンドは解約資金を確保するため資産売却を迫られる可能性があります。その結果、資産をディスカウント価格で売却することになれば、債権価値の下落がさらに投資家不安を招くという悪循環が起こる可能性があります。
4.金融規制の対象外・債権評価問題
PCは銀行と違い、金融当局の規制などが緩やかです。既述した通り、リーマンショック後の銀行への規制強化が成長のエネルギーだったことからも明白です。融資債権の評価も自己評価であり、銀行の評価方法や市場の評価とも違います(注:米国では融資を債券として売却する市場(CLOなど)が存在します。そうした市場では融資債権は投資家から評価されるので、価格の透明性も高い)。
規制当局からの目が届かないため、実態把握が遅れています。よくわからないというダークサイドが懸念を増幅させています。
「潮が引くと、誰が裸で泳いでいたかわかる」
ウォーレン・バフェットの有名な言葉です。金利上昇という潮が引きつつある現在、プライベートクレジット市場のダークサイドが徐々に見え始めていると言えるのかもしれません。
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