アメリカ株投資の面白さは、株主目線経営であることが、他の国と比較して相対的に徹底している点です。
個人的にはその第一位は、毎年確実に増配してくれる(注:もちろんそういった企業は全体から見れば少数派ではあるが)、という点に強く感じます。
アメリカ株への投資を始めてかれこれ10年弱になりますが、20数社しかないポートフォリオの会社の経営戦略が大きく変わることが頻繁にあります。
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その手段として、大型M&Aやスピンオフ、スプリットオフなどと呼ばれる分社化があります。
特にこの分社化は大きく企業自体を変える可能性を秘めているので、重要だと思います。その背景や考え方など理解すると、経営戦略論やM&Aに関する知識も積み重ねられて、実際のビジネスにもヒントを与えてくれるかもしれません。
スピンオフは会社分割の一つで、例えば富士フィルムHDがやっぱりゼロックスは事業シナジーがなく、分社したほうがそれぞれの事業の価値を株価に反映しやすく、株主にも合理的だ、と考えたとしましょう。
スピンオフを使うと、株主は従来の持ち株をそのままで、富士フィルムとゼロックスの2社の株を受け取ることができます(ただし、2社を合計しても従前の富士フィルムHDの価値と変わらない)。
2社とも上場企業のままです。株主はいずれかの株を売却したときにはじめて課税が発生します。
上場企業が株主に負担をかけることなく、機動的に経営戦略を変更できるような手段としてアメリカでは盛んに用いられます。
こうしたM&Aや分社化で、会社の目指す方向性が大きく変わったりします。そういった経営戦略はこれからの時流に合っている可能性が高く、かつ、株主の希望を聞き入れている点がアメリカらしいです。
私のポートフォリオ企業の場合
2008年 アルトリアグループからフィリップモリスインターナショナル(PMI)が分社化。PMIを誕生させることにより、株主をアメリカのたばこ訴訟のリスクから遮断させ、かつ、成長率の高いPMIの海外の事業を好む株主に投資の選択肢ができる。
一方、アルトリアはAmerican Smokeless Tabacoという無煙たばこ会社を買収。米国内のタバコシェアを固める。
ただし、その後、トータルリターンは、事前の予想に反し、アルトリアのほうがいいと思う。
2010年 モトローラが携帯端末等の製造販売のモトローラモビリティと通信機器のモトローラソリューションに分社。アイカーン(元祖「物言う株主」の人で有名)がかねてから主張していた政策を採用して話題となった。なお、モトローラモビリティはその後グーグルが買収してびっくりしました。
2011年 ジョンソンエンドジョンソンはシンセスという骨接合材最大手企業を買収し、その後オーソ事業(臨床薬事業)やコーディス事業(心臓・血管系機器事業)の売却など事業ポートフォリオを入れ替えている。
プロクター&ギャンブルは小さい事業を頻繁に売却している。あのプリングルスもビックス(薬)もデュラセル(バッテリー)も売却された。
この2社は事業ポートフォリオをより高い利益率が出せ、かつ得意領域の事業に集約しています。
米巨大企業で成長率が鈍っているところは、株主から、「簡素化」(Simplify)とか「機敏さ」(Agility)等を求められており、M&Aによる成長ではなくオーガニックな成長率を高めることを求められています。
こういったプレッシャーが分社化を選択する一つの経営者のモノサシにもなっています。
2013年 アボットラボラトリーズがアッビイと分社。先発薬事業とそれ以外に分離。ヒュミラというブロックバスター薬の将来の特許切れによる業績不透明感などを投資家が嫌気しているということで分社したが、その後の株価推移は分社したアッビイのほうが良いという皮肉な結果に。これは意外。
アッビイはその後、2兆円という破格値で、ファーマサイクリックスを買収するなど貪欲にヒュミラ以外のポートフォリオを充実させている。
2014年 バクスターインターナショナル社はバクスアルタ社と分社化を発表。後者はバイオ技術を駆使した研究開発型企業ということで売り出したのですが、いきなりシャイアーというアイルランド国籍のオーファンドラッグメーカーに敵対的買収に遭ってしまった。
この買収劇は、スピンオフ後は分社化された企業の株価が下がりやすいというジンクスを利用して、敵対的買収を仕掛けるという感じだったので、結構びっくりしました。隙あれば買収されちゃいますね。
2015年 ダウ・ケミカルがデュポンと合併を発表。合併後は会社を3分割して、専門性を高めた企業を目指す。
3分割されたうち1社は農薬・種子の業界で最大手が期待されますが、合併までの時間の中で、独バイエルが米モンサント(遺伝子組み換えなどの種子・農薬の専門企業)を敵対的買収でほぼ手中に収めようとしています。農薬業界の業界地図ががらっと変わりつつあります。
戦略が当たったか、外れたか、はともかく、自分の持ち株が頻繁にこういった場面に遭遇すると、「やっぱりアメリカは違うなあ」と感じざるを得ません。
ダウとデュポンが合併するなんて考えられませんでしたが、その後さらに3社に分割すると聞いて、そのダイナミックさがさすがだと感じざるを得ません。日本では、三菱化学も住友化学も、ブクブクと大きくなるばかりで、何のために大きくなっているのかよくわかりません。M&Aで大きくなっていますけど、系列企業が集合しただけで、株主にとって何のメリットがあるのかよくわかりません。
単にM&Aをやったら褒められる?風潮のある日本より一段レベルの高いマスコミ論調や経営戦略をリアルタイムで味わえます。
リターンの良さはこういった実行力にもあるのかもしれませんね。
経営戦略論とかM&Aに興味がある人で、実際のアメリカのそれなりの企業(S&P500を構成するような企業)に投資をして、その経営手法を見ていると、下手なMBAなどよりよほど実践的な経営戦略をリアルタイムで味わえます。
投資判断はご自分で
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