東芝の取締役会で、「物言う株主」が社外取締役として2名選任されました。外国人投資家の支持を得て、選任されたということですが、このニュースを「外資投資家や外資ファンドたちはカネもうけばっかり考えている悪いやつ」と考えていると本質を見失うでしょう。
私見では、『普段からしっかり経営していなかった事例として、反面教師にしましょう』ということに尽きます。
そもそも、今回の事態を招いたのは他ならない東芝自身です。
2006年にウエスチングハウス社(原子炉等の製造)を54億ドル(当時のレートで約6400億円)で買収。
2015年5月に突如、決算見送りを発表。7月に粉飾決算が発覚(のちに「不適切会計」と言い改められる)。ウエスチングハウス買収当時の社長まで引責辞任をする。
同年11月、ウエスチングハウス等の減損処理など発表。
2016年3月、東芝メディカルズをキヤノンに売却。売却益で辛うじて上場廃止をまのがれる。この後もREGZAなどテレビ事業を中国・美的集団に売却など帳簿上の自己資本を債務超過にならないよう、事業の再編を求められる。
2017年3月 そのウエスチングハウスが米国でチャプタ―イレブン(会社更生法のようなもので倒産と考えていい)を申請。同社向けに債務保証を6500億円、貸付が1700億円あるそうで、2017年3月末現在で、債務超過が5500億円となってしまった。債務超過が2期連続で上場廃止処分になってしまいます。また、金融機関(銀行)の貸付金の評価が落ちる(要注意先とか破綻懸念先に分類されると、銀行は貸付金に貸倒引当金という評価損の計上を迫られ、地銀レベルだと経営に大打撃を与える(つまり経営者はクビ)ため融資の引上げリスクが高まる)ため、資金繰りの行き詰まりが想定されていました。
上場廃止を逃れるため(廃止になると、多分株主訴訟等に発展することと、「日本の恥」という点、ヤバい点がいっぱい出てくる他で避けたかったんでしょう)、事業売却と同時に資本の増強を考える。そのための半導体事業の売却です。
結局、この債務超過で上場廃止のリスクがあるかもしれない東芝の増資に応じたのが、ヘッジファンド系、アクティビスト系の外国人投資家だった、というわけです。
(ご参考)東芝再建 予想通り迷走中? 2017年12月27日
経営判断ミス(原子力発電所工事遅延によるコストオーバー)に加えて、決算の『不適切処理』(この事件以降、『粉飾』とは言わなくなったと思う)をやるような企業の増資を引き受けるのは、普通の投資家では想定できません(株主や債権者を騙したのですから)。
したがって、勢いリスクを果敢に取れるファンド系投資家になったということです。
個人に例えると、借金に追われてサラ金から借りた金グセの悪い人のようなものです。
2017年12月にこの増資を発表し、2018年6月に東芝は稼ぎ頭の半導体事業を米ベインキャピタルを中心とした投資家グループに売却しました。これにより債務超過危機を脱しました。
その後、外部から社長を招聘し、再建計画を立てましたが、メディカル、半導体事業と稼ぎ頭を相次いで売却し、これと言った得意技が乏しい事業の集合体となってしまいました。
計画は進まず、グループ再編も進まず、ついに、上記外国人投資家から「いい加減に株価を上げろ」という声が強まりました。
また2020年6月の株主総会で一部株主の議決権の行使を妨げていると株主側の弁護士から主張を受けるなど、経営陣と株主の対立が深まっていました。
2021年は、スピンオフによる会社分割案を会社側は提案しましたが、株主側はそれでは株価の上昇につながらず、株主にメリットがないと主張し、TOBプレミアムによる非公開化を示唆しました(この際手っ取り早く株価を上昇させるためには、TOBで株価にプレミアムを乗せて売却してくれということ)。
一連のゴタゴタが話題となり、この間株価・業績は冴えませんでした。
ウエスチングハウスの買収のあった2006年の株価を日経平均、東芝とも100として、指数化。2022年6月末現在で日経平均は約160に対し(1.6倍)、東芝は80に過ぎない。
また、外国人投資家による増資(2018年3月期)以降、業績(営業利益)、株価ともさえない。株価が上昇しているのは、東芝再編(非公開化)の思惑で買っていると想定。
売上高は2008年3月期の8兆円弱から、(コロナもあると思うが)2022年3月期の3兆強と半減している。
営業利益はメモリ事業を売却後は1000億円を上回るのがやっとで、これも2007年3月期の半分程度の水準となっている。
株主の観点で見れば、2018年3期以降、何も変わっていないということになる。
一連のゴタゴタには、経済産業省の関与が深いので、外資を悪者にして、経産省の利権を保護したいのではないかという見方もあります(日産と同じ構図)。
東芝の件に関しては、やたら外資は売却先として不適切という話が出てきますが、だからと言って、日本企業がどうしても欲しい、というわけでもないようです。そんなに価値があるのなら、東芝メディカルシステムズの時(キヤノンと富士フイルムで買収合戦になった)のような盛り上がりがないのも、市場価値のなさ(事業の魅力のなさ)に尽きます。
つまり、非公開化による株主利益の最大化は、サラ金への借金返済のようなものなのです。サラ金のお世話にならないような、経営ガバナンスをしっかり運営していかなければならない、という反面教師とすべきです。