2012年3月12日月曜日

北米「非在来型エネルギー」と投資戦略 その2 「シェール革命」とは何ぞや?

「その1」で、結局投資スタイルに適合し、業界見通しも概ね良い、という結論になりました。定番長期銘柄として、石油メジャーのシェブロン株を買いましたが、更に北米で話題沸騰中の「シェール革命」関連銘柄にも目を付けました。

米国経済見通しや米国のエネルギー政策、株の期待リターンなどを考えると、ここに落ち着きました。ちょっと最近高くなりすぎた感がありますが、中長期展望です。

背景・経緯・見通し(ざっくり簡単に言っているだけですが)

「シェール層」と言われる地層にある石油・天然ガスを採掘して、資源化するというもので、資源の存在は昔から指摘されていたのですが、それを採掘するには格段にコストがかかるということで、これまで放置されていました。

しかし、911テロ爆破事件以降、アラブにエネルギー政策を依存することは潔しとしない風土が高くなりました。

2000年代に入ると、中国・インドといった新興国の台頭が著しく、原油価格は次第に上昇し始めました。また、IT革命により水平掘削が出来るようになり、原油価格の高騰とともに水圧破砕法がクローズアップされてきました。

(この「水圧破砕法」の普及に一役買ったのは、当時アメリカ副大統領のディック・チェイニ-で、彼は一時期ハリバートンという石油・ガスサービス会社のCEOをやっていて、同社が保有する水圧破砕法で用いる化学薬品を自由に使える(薬品の使用を開示しなくてもよい)法案を副大統領時代の2005年に可決させたことがきっかけとなりました。


(石油ガス鉱物資源機構の資料から)
これが水平掘削・水圧破砕法と呼ばれる工法です。上の図は主に水圧に使う水の処理を説明するための図ですが、イメージしてもらえればと思います。ここでは技術的な話は省略しますが、最近ではより深く、より長距離に水平に掘る技術が実用化されるようです。

次第に水圧破砕法によるガス田開発が進むようになりました。それはアメリカでも天然ガスをLNGとして輸入しないと自給出来なくなると言われていたからでした。

さらに、当時アメリカは住宅バブルが高原状態に差し掛かり、利下げを始めたことなどから、短期マネーの流入で相対的に原油価格や資源価格が急騰し、水圧破砕法で採掘しても、十分リターンが出るようになってきました。この低金利・資源インフレが、さらに資源開発に拍車をかけ、資源開発コストが更に資源価格に上乗せされるという、消費者から見れば悪循環、生産者から見れば好循環な状況が生み出されてくるようになりました。

そして水圧破砕法によりシェール層から採れる天然ガスで、アメリカは天然ガスを全て自給できるほどの埋蔵量が増加したと言われています。したがって、アメリカの天然ガス相場は「豊作貧乏」による下落と言う皮肉な結果になりました。

天然ガスのみならず、石油もある程度同じ工法で採掘出来るため、今アメリカでは、シェールガスよりもシェールオイルに熱視線が注がれています。

ノースダコタ・モンタナ・カナダのアルバータ州に広がるバッケンシェールと呼ばれる北米最大のシェール油田地帯では生産が始まり、周辺地域は大変潤っています。

アメリカは土地の所有者は土地に眠る鉱物資源の所有権があるらしく(一般的に普通の国では資源は国家に所属するらしい)、土地所有者が採掘に協力するインセンティブが働き(多くは採掘権等をレンタルし、生産期間中に生産会社から一定金額を受け取る、家賃を受け取るような感じ)、ちょっと可能性があると、採掘、試掘のドリルが撃ち込まれており、北米は世界でもっとも地層が把握されている地帯と言われています。

また、パイプラインや消費地である人口、工業力がそろっており、要するに水圧破砕さえうまくいけば、「地産地消」できる環境が整っていると言われています(普通は資源が取れるところって、アラビアの砂漠とか経済的に開発が進んでいませんよね)。したがって、低コストかつ効率的な採掘環境にあります。

更に、カナダでは(シェールとは関係ありませんが)オイルサンドと呼ばれている重油層(文字通り砂に混じった重油層から石油成分を取り除いて活用)が眠っており、2000年代半ばの原油価格高騰により、採算に乗るようになったことから採掘が進んでいます。

こういったシェールガス・オイルやオイルサンドは従来の採掘方法(穴を掘って垂直的に吸い上げる)と違うため、「非在来型」と呼ばれることがあります。

ダメ押しで、北米石油産業への追い風は、イギリス・ノルウエー沖に広がる北海油田の枯渇化です。最近新たな油田の発見が少なく、埋蔵量が減少気味のため、「アラブの春」とは関係なく慢性的に北海Brent価格がテキサスWTI価格より高くなっています(欧州の石油価格が米国のそれより高い。したがって、米国の石油関連産業は川上から川下まで価格競争力で欧州の競合より有利になることを意味します)。

こういった一連の動きが米国での石油・天然ガス産業およびその川下産業で喚き立っている背景になっています。
アラブに依存することなく、自国とカナダで十分な石油とガスの調達が出来る目処が立ちつつあるのです。
アメリカ国内の石油生産量は矢印の2009年ごろから反転増産に動いています。
カナダの石油生産量は2000年から2010年で40%程度増産され、2020年までにさらに4050%増産されるという予想があります。


(いずれも石油天然ガス・金属鉱物資源機構の資料から)

そして、これらの資源の活用で、アメリカの石油化学産業は価格競争力を回復しつつあるのです(持ち株のダウ・ケミカルのCEOの鼻息が荒いです)

アメリカ以外にもシェール層は存在しますが(世界最大のシェールガス埋蔵可能性のある国は中国と言われています)、インフラの未整備や消費地等が遠いため、アメリカ以上にコストがかかると言われており、当面はアメリカの独壇場の様です。

一方では水圧破砕に利用する水の保存方法が稚雑なため、土壌汚染を引き起こすようなことや、水圧破砕に利用する化学薬品が人体に影響を与えるのではないか、とか、ガスが水道水に混じって水が飲めなくなる、等の環境被害もクローズアップされており、アメリカではエネルギー政策と環境政策のバランスが求められていますが、現状「見切り発車」で、何かクレームがあれば対応して、住民と妥協するという流れになっています。

現状では住民がたくさん住んでいる地域では水圧破砕を行わない、とか、使用した化学薬品を開示するとかで解決が図られようとしています(しかし、一部の薬品は「企業秘密」で開示不要とするなど完全ではありません)。

ただし、新たな投資が行われる→雇用を生み出す、という点は今のアメリカには背に腹変えられないメリットがありますので、妥協せざるを得ないと言うのが現状の様です。

国家のエネルギー政策、経済成長、雇用創出と環境保全のバランスなどまだまだ議論は続くと思いますが、私は最終的に資源を活用する方向で決着すると思っています。経済競争力を維持拡大させることはアメリカの国益で、国家エネルギー政策上、資源は持っているものが勝ちだからです。湾岸地域にカネも神経も使うことも辟易しているはずです。

ありきたりですが、環境とうまく折り合って欲しいと思っています。

応援よろしくお願いします。

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