前回のまとめ
ITWは40年連続増配中の米国のコングロマリットで機器・工具メーカーである。
リーマンショック後は、減収増益と筋肉質な財務体質に変貌中である。
この間、事業売却や借入金などにより、自社株買い・増配で株主に報いている。
業績変動や株価変動が激しく、長期保有しづらい製造業系の長期連続増配株ポートフォリオの候補として、適切な銘柄だと思われる。
今回の要点は
M&A戦略で膨れ上がったポートフォリオを絞り込んでいる。集中と選択の戦略を実施中。
更に、80対20戦略と言い切っており、付加価値の高い80の製品群・顧客に経営資源を集中させて、よりシンプルで簡単な事業構造・組織形態に切り替えて、競争力(利益率)の改善を図っている。
向こう数年間はM&Aではなく、Organic Growth(内部成長)を重視し、売上高成長率5%、営業利益の成長率9%~10%、EPS10%~12%の成長を目指している。
ITWは2012年に5か年計画を発表し、2017年をめどに、より筋肉質でM&Aに依存せず、内部成長による安定的な成長を実施していくと投資家にコミットメントしています。
米国企業で5年の中期計画を発表することは、時々あります(IBMは見事に失敗した)。
投資家が期待してもよい、財務指標は以下の通りとなっています。
世界経済が3%で成長する前提を立てています。それに+2%の超過成長率を自社の売上高の成長率にターゲッティングしています。残り2%はより成長率の高いセグメントに集中することと経営努力だとしています。
営業利益が売上高以上に成長する前提は、売上高が増え事によるレバレッジ効果(固定費は変わりませんから)と後述する80対20戦略や組織のスリム化による利益率の改善を意図しています。
EPSがさらに営業利益の増加よりも増えるという前提は、ずばり、自社株買いを積極的に行うことを示唆しています。1%~2%の株を買い集める計算です。これはひっきりなしに自社株買いをするイメージです。
トータルリターンがEPSに+2%となっているのは、EPSの成長分だけ株価が成長すると仮定し(PERが中立)、配当利回りが2%ぐらいという前提を置いているものと推察されます。
(注:為替中立ベースだと思います)
このように米国企業の経営計画は、投資家に非常にわかりやすい内容になっていると思います。
日本企業だと「自分たちはこれだけ頑張るけど、投資家さんは配当性向30%だけです」といった内容になっていませんね。
「自分たちはこれだけ頑張るので、投資家さんはこんな期待をしてください」そういう内容になっています。
80対20戦略
いわゆる2対8の法則と言いますか、2割の顧客が8割の利益をもたらす、というたとえをそのまま経営戦略に落とし込んでいます。
2割の顧客・製品・プロセスが80%の売上高や利益を占めている。この“80”の部分にフォーカスするというもの。8割の顧客・製品・プロセスが2割の売上高や利益を占めていている“20”の部分は人件費以下の経費をカットして、効率化しよう、というものです。
おそらく、どの部分が“80”でどの部分が”20“なのか、具体的な線引きが出来ているものと推測されます。
これを継続すると3年後にこうなるといっています。
当然営業利益が増える、という事に。
また80対20以外にも
ポートフォリオの見直し(選択と集中)。これはすでに年間売上高にして$5B(約6000億円)で30のビジネスを既に売却済みであり、終了したといっています。したがって、前回売上高が伸びていないように見えたのですね。
事業構造の簡素化。ITWでは事業部門で独立して、購買や間接部門があったらしいのですが、本部集約して、コストの効率化を図っていくようです。
分権化:一方では、各事業が独立した経営を行う事で、企業家精神を引き立てて活性化を促しているようです。
つまり、本部による権限の集中と、事業部門ごとに権限の委譲のバランスをうまく保っていく、ということだと理解しました。
但し、MorningStarの分析では、過去12年間、いわゆるOrganic Growthは1.5%しか成長率がなく、「Organic Growth is the elephant in the room」と評価され、成熟市場の中での成長に疑問を呈しています。(小さなお池の大きなクジラの英語版でしょうかね)
しかしながら、80対20戦略や、5%とは言わないまでも、相応の成長率を期待するとして、Economic MoatをNarrowとしています(Moatがない企業の方が多いので、Narrowでもあるだけ優良企業と言えます)。
DPSの年平均成長率は8%以上の期待はしてもいいような気がしました。引き続きウオッチしていきたい銘柄です。
0 件のコメント:
コメントを投稿