2015年6月13日土曜日

「明解 医薬品産業」漆原良一(野村證券 アナリスト)著 を読んで お勧めです!


明解医薬品産業
著者:漆原良一
価格:1,620円(税込、送料込)

結論として、是非ご一読をお勧めします。

特に、

  1. 医薬品業界に対して、難しく、分かりにくく、とっつきにくいと考えている人
  2. 業界に対する知識の整理・整備をしたい人
  3. この業界への株式投資を考えたい人
は確実に、いや絶対に役に立つ本です。この本が役に立たない人は、全く業界に興味がない人か、医薬品オタクかいずれかです。


株式投資から配当金を目的として投資している人、分散投資志向の人にとって、医薬品メーカーは基本的にCFがよく(日本の上場医薬品企業の平均営業利益率は20143月期で13.4%に達します)、安心して配当金が狙えそうな銘柄が多いです。

日本企業でも、連続増配する企業はまだ少な目ですが、Progressive Dividend Policyを掲げる企業も出てきましたので(例:伊藤忠商事。要するに、連続増配を確約しないけど、そのかわり減配はやらないというもの)、医薬品企業でも流行るかもしれませんね。

したがって、配当狙いの投資戦略を株式投資でお考えの人は更に強くご一読をお勧めします。

著者の漆原氏は野村証券の医薬品セクターのアナリストで、アナリストランキング上位常連者の方です。
薬剤師免許を保有し(実務経験はないと思う)、この業界で20年前後アナリストをやっている方です。


証券アナリストが資本市場の見方を踏まえて分析しています。医薬品企業のアナリストレポートの平均的な内容と比較すると、市場構造、市場動向など非常にわかりやすく書いているのではないかと思います。

いろんな業界本を読んできた私にとっても、この本は、まさしく投資家が望んでいたようなことがたくさん詰まっています。

「証券アナリストの言っていること」をどう考えるのかについては、上手に活用すればいいと思います。

私自身は、現在と過去の分析については非常に信頼しています。つまりFact Findingは信頼しています。

将来の見方については、証券アナリストの見方を3割ぐらい割り引いてみています。彼らは、ずっと業界に浸っていて、取材源である企業の幹部とも懇意にしていますので、悪口を書きにくい状況や、業界や技術に対して思い入れが大きかったりする傾向があります。
したがって、ネガティブなことを書きにくい立場にもあります。

たとえば、取材企業の肝いりの最新工場を見学させてもらった後で、たとえ本音で「設備じゃねえんだよ、あんたの会社はさあ。」と、思ったとしても「この会社はダメです。無駄な投資です」とは言いづらいと思います。


この本でも、Fact Findingの部分とFuture Prospectiveの部分に分かれています。過去に起こった延長線上で将来を考えざるを得ない、という点に立脚すればリーズナブルな書き振りに見えますが、ご自身でその見解に納得できるまで調査したうえで、投資に踏み切る、というスタンスが必要だと思います。
(納得できるまで調査しても、みな同じ意見だったりするんですけどねえ。この辺が難しい)

前半はこれまでの医薬品産業の流れとそれに伴い、同セクターが株式市場でどのような評価をされてきたのかを分析しています。

中盤では、今医薬品業界で何が起こっていて、その流れがどうなっていくのかを分析しています。
後半は、抗がん剤、そして病気を治療する方法が現在のバイオ薬の主流である分子標的薬から腫瘍免疫治療に移るのではないか、と見通しています。

更に、再生医療の将来可能性について言及しています。


腫瘍免疫治療と再生医療が今後の2枚看板だ、といった結論になっています。
(確かに、今ならそんな感じがしますけど、一昔前ならガン免疫療法って、インチキ医療でしたからねえ。したがって、将来はもっといいのが出てきてもおかしくない)

当然ながら、この流れで恩恵を受ける企業はこれだ、といった感じになっています。

最後に、日本の上場医薬品メーカーを簡単に、「こんな歴史で、こんな強みがあって、こんな課題があって、今後はこんな感じ」という風にまとめてくれています。

ただし、アナリストレポートではないので、個々の企業が買とか売りとかは記載されていません。
特に前半から中盤の現状分析に関する部分は、たとえば、販売製品のうち、自社で創薬・開発したもの、他社から導入して開発したもの、他社の製品の仕入れ販売品における各々の粗利益率は、平均すれば90%60%30%である、とか、MR一人あたりの売上高は1.5億円ぐらいが必要で、1500人を超えると販売効率がアップする、とか、バイオ薬と低分子薬の違いはこうだとか、業界人には当然なようなことが、すっきり整理して仕入れることができました。

こんな感じです。

日本の医薬品業界

日本の医薬品企業は、特許切れの後の新薬の開発が進んでいない企業が多く、業績は伸び悩み、あるいは下り坂の企業が多いです。

しかし、アベノミクスで日経平均が倍増していますので、それにつられて(倍増とまではいきませんが)高くなっています(インデックス採用銘柄だと、「買わなければならない」。エーザイなんて典型的ですね)。

今すぐ買いのチャンスか否か、何とも言えませんが、買いチャンスが来た時に、サッと動けるような準備が結局は、「悲観で買う」前提だと思います。


「知識の準備」にこの本はきっとお役に立つことでしょう。
一介の個人投資家が、大手証券会社のアナリストにBuy レーティングを付与します(いっぺん言ってみたかった)。





応援お願いします。

にほんブログ村 株ブログ サラリーマン投資家へ

3 件のコメント:

  1. ありがとうございます。読んでみたいとおもいます。

    返信削除
  2. ブログ主さんの言われるように著者は医薬品業界に長けているアナリストですが、野村證券のアナリストゆえに野村の自己売買が有利になるようなインチキリポートも残していますよ。
    代表的なのが某製薬メーカーが海外M&Aで大失敗したインドの製薬メーカーを株式交換で別のインドの製薬メーカーに売却しましたが株式交換後の株はインドの法律で1年間売却できないと昨年11月にリポートで大嘘を書いています。(実際はすぐに売却してOK)
    そして今年4月に株式交換が完了し、某製薬メーカーはすぐに株式を市場で売却し3800億円ものキャッシュを手に入れ自社株買いなどに資金にしました。当然、これだけのキャッシュが一気に入るわけですから某製薬メーカーの株価は4月以降大きく上昇しています。
    アナリストが書く本に良いものがあるのも事実ですが、所属する証券会社が有利になるようなリポートを書くことも忘れてはならないのではないのでしょうか?


    返信削除
    返信
    1. ご指摘ありがとうございます。
      そういうケースもあるかもしれませんね。

      しかし、本文にも記載しましたが、我々投資家も、アナリストを「上手に活用」できるようにしていけばいいのだと思います。
      彼らの業界知見をご自分に有利に活用するように工夫していけばいいのだと思います。

      削除